不安でいたくない。でもたぶん、一切の不安がなくなったとき、終わるのだ。恋も、愛も、人生も。

永里蓮
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xyz♯47
第二章「永里蓮、アンゴルモアの大王を追う」 



「言うてへんかったことって?」
「おれの父親な」タケは言った。「非合法的な仕事してるねんて」
「ヤクザってこと?」おれは聞いた。
「ヤクザとかマフィアとか名称はわからへん。てかくわしいことはわからん。最近はまったく帰ってこおへんし、生きてるか死んでるかすらわからん。でも、そんなんって言われへんやん」
「親は親、子は子やろ」
「そういう風には見てくれへんよ」
「変な話していい?」おれは言う。
「うん」
「おれ、世界中で悩んでるんておれだけやと思っとってん」
 タケは笑った。「おまえらしいけどな」
「みんなそれぞれ悩んでるんやな」
「そらそうや」
「それやったら仲良くしたらええのに。思わへん?」
「おまえ、殺人犯と友だちになりたいか?」
「……でも、自分が殺人犯になる可能性やってあるやん」
 タケは首を振った。「ほとんどの人間は、自分だけはそんな人間にはならんと考えとうはずやで。普通じゃないことをしでかす人間は先天的に異常であり、自分とは根本的に違う生き物であり、理解不能、コミュニケーション不可のバケモンや、と」
「そうかもな」そう言っておれはビールを飲み干した。「なあ、タケ、タバコ吸いにいかへん?」
「ええで」

       Φ Φ Φ

 外に出ると湿った匂いがした。電灯が照らし出す空間に斜線のような雨が見えた。玄関に戻って傘を持ち、傘を差し、タバコに火をつけた。黄泉にタバコはやめたほうがいいと言われたことを思い出す。でも、吸い込む煙はうまかった。深夜の空気とタバコは相性がいいような気がした。
 綾香、親父、義父さん、ハネくん。おれの物語からはどんどん登場人物がいなくなる。そしてそのことに、おれはひとつも関与ができないのだ。黄泉が来てくれなかったら、おれが退場している可能性だってあった。そんな頼りないやつがおれの物語の主人公のはずがなかった。じゃあ主人公はどこにいるんだろう?
「何を渋い顔して考えとん」タケは言った。
「もしおれが死んだらさ、おれの持ちもんとか力とか全部おまえに引き継げたらいいのにな」
「何で上から目線やねん。てかおまえの持っとう力って何や。ケンカ強いとか、自己中心的な性格とか、おれそんなんいらんよ」
「それもそうやな」と言って笑った。
「……おれが欲しいのはおまえのその素直やわ」
「素直じゃない人間なんておるん?」
「素直ってのは素質や思うで。傷つきやすいとか、自分の傷をさらせる、とか、それは明らかに素質やわ。野生の動物は弱点を隠すもんやで」
「そうか」
「部屋入ろうや」
「うん」

       Φ Φ Φ

 7月18日(雨)

 翌朝起きてもまだ雨は降っていた。タケに傘を借り、約束の時間に氷野の家に向かった。が、氷野は出てこなかった。電話にも出なかった。家に電話をしても誰も出なかった。チャイムを押しても誰も出てこなかった。雨は降り続いていた。

 1時間待っておれはそこから離れることにした。どこにも行く場所なんてなかった。南下してパチ屋に入った。交換率もわからない、設定状況もわからない、裏モノかどうかすらわからないスロットは打つ気になれなかったので、多少回りそうなルパンの現金機を打つことにした。
 フジコがヘリコプターで登場して黒パンツを見せつけていった。もらった、と思ったが、ルパンの試みは失敗に終わった。ポケットで携帯が震えていた。急いで外に出て電話を取った。
「もしもし」
「蓮」とタケは言った。「落ち着いて聞いてくれ」
「いいからはよ言えや」
「落ち着くって約束してくれ」
「はよ言えって」
「だから落ち着けって」
「落ち着けるわけないやろ」
「……落ち着いたら話すわ」
「何やねん、はよ言えや」
「……」
 ふう、と息を吐いた。「わかった。落ち着く」
「ホンマやな? 絶対に取り乱すなよ」
「ああ」
「アキが緊急入院した」
「は?」
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