スロットで食ってもいい理由? あるわけねえだろそんなもん。生きていいですかって誰かに聞くか?

永里蓮
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xyz♯46
第二章「永里蓮、アンゴルモアの大王を追う」 



 頬はこけ、まぶたはくぼみ、サラサラだった髪はゴワゴワだった。異臭までした。目の前にいるミキモトは、以前の姿を連想するのが難しいくらい、変わり果てていた。
「ミキモトさん」とおれは言った。「何してんすか?」
「あ?」とミキモトはすごむ。「誰や君」
「なあ、こいつしばいていい?」タケにそう聞いた。
「ミキモトさん、また警察に来てもらいますよ」タケは能面のような表情でそう言った。
「君も誰や」ミキモトは言う。「君らは何でおれとアキの仲を邪魔するねん。嫉妬はやめなさい。アキ、ほら、行こう」
「嫌や」氷野は首を振った。
「アキ、わがままを言うんじゃない。行くよ」
「なあ、ミキモトさん、うちこの人と付き合ってるねん」そう言って氷野はおれの腕を抱きかかえた。
「何言うてんねん、おまえと付き合ってるのはおれやで」
「ミキモトさん、うちらもう終わってるねんで」
「終わってへん」ミキモトは言う。
「おい、クサオ、おまえホンマにしばくぞ」おれは言った。
「蓮、やめろや」と氷野は言う。「もう行こ」
「アキ」ミキモトは言った。「今度はふたりでゆっくり会おうね」

       Φ Φ Φ

 どうしてあいつを殴らなかったのだろう? しばきたかったらしばいたらよかったのだ。2人に会って調子に乗っていたのだろうか。甘えてしまったのだろうか。久しぶりの自己嫌悪にうんざりした。このうんざりする感覚すら甘えかもしれなかった。おれたちはほとんど喋らず氷野の家までの道を歩き、別れた後、タケの家までの道をとぼとぼと歩いた。
「なあ、ああいうのって警察で何とかならんもんなん?」おれは言う。
「色々大変みたいやで。ミキモトの家は一応、名家やし、それに、つきあってた事実はあるわけやし、アキのことを悪く言うやつもおるしな」
 家々の灯をまとった山。ゴミの落ちていない道。こんなところでどうして人間は問題をつくるのだろう? 火のないところに火をたてようとするのだろう? 劣化が本質。コウ先生の言葉。
「なあ、タケ、人生ってしんどない?」
「ん?」
「おれら100パー死ぬやん。何で生きなあかんねやろ」
「ゲームの決まりみたいなもんやろ。野球やっててストライクが3回入って、まだバッターボックスに立ちたい言うてもあかんねん。おまえがしんどいねやったらおまえの役割おれがしたってもええで」
「役割?」
「氷野アキを幸せにする」
「幸せ、か。抽象的すぎて死と同じくらいわからん」
「おまえホンマどないしたん?」タケはそう言った。
「どうしてさっきミキモトのことを殴らんかったんか、自分でもわからんねん。おまえらがいたからもあるやろうし、状況がそうさせたのかもしらん、でも、あかんもんはあかんやん」
「それはおまえの正義がストッパーになったんやろ」
「正義?」
「どんなに正当性があっても、多対一で、しかも女の前で使う力は強さじゃない。感情としてはしばきたい、でも、正義感がそれを止めた。そういうことやと思うけどな」
「タケ、おまえいいこと言うな」
「ただな、この状況がどこから生まれてるか言うたら、おまえやからな」
「あの頃のおれはつきあうってのが『健全な状態』には思えへんかってん。『不健全な関係』になりたくなかってん」
「言い訳はいらん」
「うん……。なあ、タケ、酒でも買ってかへん?」
「ええよ」

       Φ Φ Φ

「こんばんは」と言ってタケの家に入った。
「あら、蓮くん、こんばんは」タケのおばさんは言った。
「あああああ」とタケの妹は言った。
「おいっす」と言って両手を掲げた。「おいっすおいっす」といって両手を掲げたまま上下動させた。
「ふっは」とタケの妹は笑った。
 ……痛。忘れてた。肋骨折れてたんだった。
「蓮とこはもう夏休み入ったんやって」タケは言った。
「えらい早いねえ。正文、あんたんとこはいつやったかしら」
「月曜行って終わり」
「あら、そんな早かったの?」
「海の日ってできてんで」
「へえ」
「へえちゃうわ。もう3年やで。あ、蓮にごちそうになったからご飯はええわ」
「はーい」

 タケの部屋に入り、缶ビールをぷしゅうと開けて乾杯した。
「タケ」と言った。「はじめておれの部屋で酒飲んだときとかおぼえとう?」
「中二くらいやったっけ?」
「うん、そんくらい。酒とタバコをコンビニで買ってきて、おそるおそる試す、みたいな」
「そんなんやったっけ」タケは笑った。
「いつから普通になってもうたんやろな。タバコを吸うことも、酒を飲むことも」
「それが脳。それが学習やろ」
「おれ今、ギャンブルで稼いでるねやんか」
「ギャンブル?」
「ギャンブルって言うか、パチンコ屋でやねんけど」
「勝てるん?」
「うん」
「ほなええやん」と言ってタケはぐびっとビールを飲んだ。
「おい、友の告白をもっと受け止めてくれや」
「ん?」
「いや、衝撃の告白やろ」
「何で?」
「だって普通じゃないやん。ギャンブルで稼ぐって」
「おまえが普通の人間に見えるんやったら目が腐ってるわ」タケは笑う。
「ほなええけど」ビールを一口飲んだ。
「問題はあれやろ。それがどのくらいの期間稼げて、その稼いでる期間におまえがどれだけのものを失うか、やろ」
「先のことはわからんわ」
「わからんからこそ、指標みたいなんが必要なんちゃう」
「学校じゃ教えてくれないこと、やな」
「それよう言われる言葉やけどさ、学ぶ気がないだけやろって思うわ」タケはゴクゴクとビールを飲み干した後、缶チューハイのプルトップを開けた。「おれもおまえに言うてへんかったことがあるねん」

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