サッカーを見ていて思うこと。ボールより早く走れる選手はいないということ。

永里蓮

IMG_8034
xyz♯33
第二章「永里蓮、アンゴルモアの大王を追う」


 おれたちは生ビールを飲み続けた。ほとんどアテを頼まなかったにもかかわらず、けっこうなお会計だった。おれ今日勝ったから出すよ、と言ったが、ハネくんが支払ってくれた。
「先輩の顔立てろよ」
「いや、同級生じゃん」
「いや、人生の」ハネくんは胸を張る。
「ごちっす」
「いいってことよ」ハネくんはにやりと笑う。「なあ、蓮、もう一軒行きたいとこあるんだけど」
「どこ?」
「おまえの地元」
「在原?」
「うん」

       Φ Φ Φ

 そこはサンクチュアリという名前のBARだった。カウンター、テーブル席、床、天井で回るファン、すべてが木材でできた西部劇に出てくるような酒場だった。
「おれ、ハイネケンって好きなんだよね。ここ割とたくさんビールがあるからさ」
「駄洒落?」おれは鼻で笑ってしまった。
「ん?」
「ハネクン、ハイネケン」
「ああ。そういうことか」ハネくんはいたく感心した様子だった。「たしかに、味が好きというよりも、このボトルとか名前が好きなのかもしれない。味普通だもんな」
 ふと思い立ち、XYZというカクテルを頼んでみた。
「おまたせしましたー。はい、XYZね」店員が運んできた飲み物を口にした瞬間、まずっ、と思った。
「強い酒だけど大丈夫?」店員が言った。
「ああ、大丈夫です」
 タバコを吸いながら考えた。何が違うのだろう? 神戸のマスターは全世界共通でレシピは一緒だと言っていたような気がする。じゃあ何が違うのか。
仮説1、飲み手の気分
仮説2、店の雰囲気
仮説3、使っている材料
仮説4、つくりての技量

 全部だろう、と結論付けた。
「どうした?」ハネくんが不思議そうな顔でおれの顔を見ていた。
「いや、この酒、強いんすよ」
「なぜいきなり敬語?」
「先輩を立てろとか言うじゃん?」
「あのさ、蓮さ、おまえ人の話聞くの苦手とか言ってたけど何か腕上げたよね」
「やった。ほめられちった」おれはタバコの煙とともにそう吐き出した。
「昔話していい?」
「自慢話はやだよ」
「たぶん自慢話じゃない、と思うけど、やだったら聞かなくていいわ」
「話してもいいよ」
「何で上から目線なんだよ」と言ってハネくんは笑った。「おまえは知らないと思うけど、昔からこことおれの地元は仲悪くてさ、在原と今間でAI抗争とか呼ばれてたんだよ」
「うん」
「おっちゃんおばちゃん、高校生、中学生、小学生も、だぜ。在原で酒飲んでるやつは今間の悪口言ってるし、今間で酒飲んでるやつは、在原のやつの悪口言ってるし」
「全然知らなかった」
「おれはオヤジの仕事の関係で小学生の頃にこっち越してきたからさ、そういうのよくわかんなくて、だから割とひょいひょい境界線をまたいで友だちつくってたんだよ」
「うん。ハネくんってそんな感じだよね」
「中学に上がった頃にさ、先輩に呼び出されて、『てめー何在原のやつとつるんでんだよ』とか言われてボコられて。おれ何かすげームカついてやり返したんだよ。だっておれのツレをバカにするってことはおれのことをバカにしてるってことじゃん? でも中一と中二って体格とか全然違くて全然歯が立たなくてさ」
「熱い男だね」
「んで、その日顔腫らして帰って部屋の中でひたすら考えて決めたんだよ」
「何を?」
「あいつらが抗争をしたいってんなら、おれはそれに対抗しようって」
「ヒューヒュー」おれは華原朋美ばりに煽ってみた。
「熱い?」恥ずかしそうにハネくんは言った。「で、ここからはもっと熱い話なんだけど、いい?」
「全然いいよ」笑顔で言った。
「それで仲間と話し合ってさ、『AI連合』ってのをつくったんだ」
「くふ」思わず笑ってしまった。「やっぱ自慢じゃん」
「自慢じゃねえ」
「つうかさ、何かネーミングが一々昭和っぽいんだよ。なんちゃら抗争とか、なんちゃら連合とか」
「おまえも昭和だろ」ハネくんは言った。「でも、今間と在原と抗争はおれが終わらすんだとか本気で思ってたんだよ」
「どこにそんなモチベーションがあったの?」
「何だろうな。おれにもよくわかんねえな。とにかく中学の頃はケンカばっかしてた。ウケるのがさ、おれらのことを目の仇にするやつって、在原のやつと、それからおれの住む今間のやつなのね。『おれらが気に食わない』って点においては在原のやつも今間のやつも一緒なんだよ。何だよおまえら息ぴったりじゃん、仲いいじゃんって思うくらい」
「それでどうなったの?」
「四面楚歌だったけど、何とか中学3年間は続いたよ。これしれっと言ってるけどけっこうすごいことなんだぜ?」
「うん」
「で、高校上がって、徐々に人数が増えてきてたからさ、よし。組織を拡大しようって躍起になってた矢先にあの事件だよ」
「年少入ってたってやつ?」
「うん……つうかおまえ全然飲んでねえじゃん」そう言ってハネくんはおれの手元でぬるくなってしまったXYZを一息に飲んだ。「まず」
「うん」
「クラクラするわ。おまえ次何飲む?」
「ハネくんと同じでいいや」
「わかった。すいませーん、ハイネケンを2本ください」
「ハネクン、ハイネケン」
「蓮おまえそれえらく気に入ってんな……」
「いいじゃん。『ハネクン、ハイネケン』CM来ないかね」
「来るわけねえだろ」
 クールマイルドに火をつけて、煙を吸い込んだ。「それで、話の続きは?」
「問題は、死んだのが在原の人間だったってことだな」
「……そっか……そりゃつらいね」
「警察に解散届け出せって言われてさ。でも、おれらの理念は絶対に間違ってねえんだ。今でも思うよ。でも、そんなおれらの仲間内で人が死んだ。在原のやつはもちろん怒った。今間のやつも当然のように怒った。どうしようもなかった。もうどうにもならなかった。泣く泣く解散届けを書いたよ。それがAI連合の最後」
「そっか……」
にほんブログ村 スロットブログへ
つづき読みてえ、と思ったら押したって。    


♯34へGO!