日々、消去。

永里蓮
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xyz♯29
第二章「永里蓮、アンゴルモアの大王を追う」


 Vフラッシュはスイカ否定でボーナス確定のはず。が、どう考えてもこの出目はハズレである。
 一応、3枚がけで単独Vを狙ってみるも、リーチ目は出ず。
 ……バグ? とにかく回していくと、3ゲーム後にBIGが成立。何だこれ? ボーナス中もおかしかった。ベルが全然落ちないのだ。これじゃリプレイ外しをする意味がない。そもそもリプが落ちない。350枚ほどでボーナスゲームが終了。何かおかしなことが起きている。通常ゲームに戻って3ゲーム目、無消灯バラケ目でVフラッシュが出現。心の中で首をひねること数ゲーム後、再びビッグボーナスが成立。

 ……これ、何かやっとるな?

 ボーナスゲームは順押しで消化。通常ゲームに戻って5ゲーム目に無消灯バラケ目でVフラッシュ。数ゲーム後に今度はBAR揃い。通常ゲームに戻って8ゲーム目に無消灯Vフラッシュ。数ゲーム後、BIGが成立。通常ゲームに戻って6ゲーム目に無消灯Vフラッシュ。思わずニヤついてしまう。これはあれだ。つまり予兆なのだ。当たることを前もって教えてくれる。そんなシステムなんだ。3ゲーム後、BIGが成立。来い、来い、来い、と思いながらレバーを叩く。無消灯でVフラッシュ。数ゲーム後にボーナスが成立。頭の中のある部分が完全に勃起していた。そしてフラッシュがその尖った部分を愛撫するのだった。たまらん。止まらん。一気に3000枚超のコインを得る。こんなスピードで出玉が増えたのははじめてのことで、連チャンが止まってしまった後、おれはどこか遠いところに置き去りにされたような気分になっていた。
 ……ふと、思う。強く思う。あのフラッシュが見たい、と。あのフラッシュを見せてくれ、と。おれはこれまで、リーチ目だけが祝福してくれる世界で生きてきた。しかしここはバラケ目なのに祝福してくれる不思議の国なのだった。

       Φ Φ Φ

 1時間後、冷や汗をかいていた。ハマリが止まらない。そのくせ全然回らない。頭上にあった2箱がペロリと呑まれてしまった。何だこの大食いモンスターは。
 と、普通に効果音がなって小役が揃わず五月雨フラッシュ。BARだった。何だ。普通に入ることもあるのか。でも違う。おれが欲しいのはこれじゃない。頼む。いかせてくれ。お願いだから。脳がそう叫んでる。そしてそのときがやってくる。
 無消灯、ハズレ目でVフラッシュ。はううう……もっと。もっとくれ。ボーナス終了4ゲーム目、効果音がなってハズレ。4ゲーム後、ビッグが成立。こういうのもあんのね。けどおれが欲しいのはフラッシュなんだ。もっと、もっと、Vフラがほしい。Vフラをくれ。終わるかと思った8ゲーム目、Vフラ出現。……たまらん……ビッグボーナス! しかしその後、ボーナスが成立することなくコインが尽きてしまった。時計を見ると6時間が経っていた。おれは同い年の友人が高校の授業を受けている間、ただただギャンブルをしていたのだ。何という濃密さ。何という非効率さ。財布の中身は2000円しか減っていない。が、とんでもなく負けたような感覚だった。

 自分を戒めるために歩いて歩いて石屋川まで歩いてもっこすのチャーシュー麺を食べた。けれど頭の熱は冷めなかった。おれは再び歩いてさっきの店に戻った。サンダーVに着席。閉店1時間前まで打った。財布から5万5千円が消えていた。これはスロットをはじめて以来、一番の負け額だった。

       Φ Φ Φ

 再びタケの家に泊めてもらうことにした。タケがテスト勉強をしている間、おれはベッドの上でベルセルクを読んだ。深夜2時を回り、タケはフローリングに布団を敷き、電気を消した。
「なあ」とタケが言った。「おまえ、今日何しとったん?」
「フラフラしてた」と言った。同級生に朝から晩までギャンブルをして5万円を溶かしたとは言えなかった。
「通信の高校は行かんでええん?」
「単位は足りてると思うで」
「そういう問題なん?」
「たとえば二十歳を超えて大学行きたいと思っても高卒の資格さえあったら行けるやん。でも、二十歳を超えて高校行きたいと思っても難しいやん」
「おまえがええんやったらええけどな」
「うん」
「そういえば、ミキモトさん高校辞めるらしいで」
「……もうあいつの話はええわ」
「おまえ、アキのこと大切ちゃうんか?」
「大切やで」
「ほなフラフラせんと、アキにふさわしい男になれや」
「好きでフラフラしてるわけちゃうわ」
「昨日ちょっと思ってんけど、おまえ変わったな」タケは言った。
「変わった?」
「蓮、おまえ不幸に甘えてへんか?」
「不幸に甘える?」
「まあええわ。おまえの問題やしな。明日もあるし、おれは寝るわ」

 昨日は寝ようや、とタケは言った。今日は寝るわ、と言った。名詞じゃなくて大切なのは動詞や。氷野の言葉を思い出した。ハズレ目で光るV字のフラッシュ。祝福の予兆。さびしさと、胸の高まりと。体の芯が熱を持ってしまってなかなか眠れなかった。


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