頭の中やりたいばっか。

永里蓮
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xyz♯27
第二章
「永里蓮、アンゴルモアの大王を追う」


 通夜が終わり、葬儀が終わり、告別式が終わり、納骨をし、義父の葬儀は終わった。長堀橋にあるホテルに戻る途中、それまで事務的な話しか交わしていなかった母が口を開いた。
「蓮、あなたはこれからどうするの?」
「友だちに会いに神戸に行く」
「そう。気をつけなさいね」
「母さんは?」
「今日のこと? それともこれからのこと?」
「これからのこと」
「私はしばらく大阪にいますよ。あなたは?」
「おれは今住んでるとこにいるよ」
「今住んでるとこって、あなたどこに住んでいるか教えてくれてないわよ」
「おばあちゃんと住んでる」
「そう。それはいいわね」
「母さん」おれは言った。どうしても聞いておきたいことがあった。「義父さんの借金っていうのは?」
「返し終わりました。あなたが心配することは何もありません」
「後さ」
「何かしら」
「どうしておれの戸籍は永里のままだったの?」
「子どもにとって苗字が変わるのは嫌なものでしょう? 違う?」
「じゃあどうして母さんは、今田所を名乗っているの?」
「私と寺山さんは、結局籍は入れなかったの。言ってなかったかしら」
「……そうなんだ」
 会話はそこで終わった。それ以上何を話せばいいかわからなかったし、話したい気持ちもなかった。ホテルに戻ってシャワーを浴びて、外に出た。

       Φ Φ Φ

「もしもし」と言った。「タケ?」
「うん。誰?」
「おれ、蓮」
「……蓮か。携帯変えたんやな。何しとん?」
「今こっち帰ってきとってさ。会えへん?」
「今期末テストの追い込み真っ只中やで」
「あかん?」
「……ええよ」

 タケはJR芦屋と阪神打出の中間あたりにあるマンションに住んでいた。2号沿いのローソンでマンガを立ち読みしながら待っていると、ニューヨークヤンキースの紺色のキャップを目深にかぶったタケがやってきた。
「久しぶり」タケは言った。「てか、何でスーツやねん」
「身内に不幸があってさ」
「そうか。ちょお、歩こうか」
「うん」
「蓮、おまえ今何してんの?」
「通信やけど高校行っとうで」
 おれたちは芦屋川を遡るように歩いていく。こんなに静かだったんだな、と思う。
「東京やったっけ?」タケは言う。
「うん」
「元気か」
「元気やで」
「アキと続いてるんやってな」
「おかげさまで」と返す。
「なあ、蓮、おまえ知っとう?」
「何が?」
「ミキモトさん、バスケやめてんで」
「ミキモト? 何の話?」
「あの人、アキと一瞬つきあっとったやろ」
「……」
「ミキモトさん、アキにフラれて変わってもうてさ」
「いや、そんなん知らんし」
「もちろん、おまえのせいちゃうで。人間関係やからな、そら色々あるわ。けどな、問題はアキのほうやねん。嫌がらせとか、イジメまがいなことも受けてたみたいやし」
「は?」
「ミキモトさん人気あったやんか。それで上級生のグループともめてさ。アキはああいう性格やろ? だからひとりで頑張っとってんけど、結局アキもバスケ部にいられんくなって」
「何なんそれ?」
「アキは言うてへんかった?」
「知らんかった」
「でも、おまえが怒る資格はないんちゃう。こっちにおらんねんから」
「タケ。あいつのこと守ったってくれへん?」
「何でおれやねん。守りたいものは自分で守れや」
 おれは立ち止まり、ポケットからタバコを取り出して、吸った。「頼むわ」
「蓮、おまえ何吸ってるんやった?」
「クールマイルド」
「1本くれや」
「おう」
 おれはタケに火をつけてやった。大量の煙を吐き出しながらタケは言った。
「なあ、蓮」
「うん」
「昨日、帰り道でミキモトさんを見かけた。あの人、ちょっと変やで」
「変って?」
「やばいっていうか。うまく言われへんけど、目がな、やばい人の目やった」
「……どういうこと?」
「うまく言われへんねんけど、あの人には気をつけたほうがええ」
「おまえはいっつも他人の心配してるな……」
「蓮、おれ、アキのこと好きやってんで」
「……うせやん?」
「昔の話や」そう言って、タケはメンソールの煙を吸い込んだ。

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