……強がるしかねえだろ。

永里蓮

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xyz♯25
第二章
「永里蓮、アンゴルモアの大王を追う」


 7月5日(月)

 スロットを打っていると、携帯が震えていた。おれは立ち上がり、パチ屋の外に出て通話ボタンを押した。
「もしもし」
「蓮」その人物は言った。「寺山さんがお亡くなりになりました」
「は?」
「今夜大阪でお通夜があるからあなたも来なさい。詳しくはメールで送ります」
「……」
 電話が切れていた。
 すぐに祖母に電話をした。
「とりあえず家に戻ってきなさい」祖母は言った。
 おれは中間設定はありそうだったサンダーVを捨て、家路を急いだ。
「おかえり」祖母は言う。「急な話だねえ。まあ人は急に死ぬもんだからねえ」
「おれ礼服とか持ってないけど、何着てけばいい?」
「ふつう学生は学生服着るんだけどね。あんた持ってないものね」そう言った後、祖母はハンドバッグから財布を出し、5万円をくれた。「これもいい機会だと思ってスーツ買いなさい。それから、これ、数珠ね」
「これ、男物だよね。誰の?」そう聞くと、「わからない」と言って祖母は笑った。「持ち主が誰であれ、ないよりはあったほうが絶対いいし、何より仏さまは寛容だから大丈夫」
「そんなもん?」
「もちろん。誰だと思ってるの? 仏さまよ?」
 適当すぎるだろ、と思いつつ、「スーツってどこで買ったらいいの?」と聞いた。
「a.k.a.」
「何それ?」
「アオキ、コナカ、アオヤマ」
「はるやま違うんや……」
「店員さんに喪服くれって言ったらわかるわよ。真っ黒なスーツね。シャツは真っ白。ネクタイも黒。靴も黒。地味な色のハンカチも一応買っておきなさい。それともおばあちゃんがついていってあげようか?」
「いや、いい」

       Φ Φ Φ

 生まれて初めて着たスーツはいい気分がした。ネクタイをしめる。鏡を見る。大人の仲間入りをした感覚だった。そのままの格好で家に戻ると、祖母が「孫にも衣装」だね。とくだらないことを言った。
「字が違うだろ」とつっこんでおいた。
「蓮、あの女にはくれぐれも気をつけなさいよ」
「母さんのこと?」
「あの女はイナゴみたいなもんなんだから。男の運をすべて吸い取っては移動する。一緒に住もうとか言われても絶対にうなずいちゃダメだよ」
「わかった」おれは言った。「じゃあ、行って来る」
「いってらっしゃい」祖母は笑顔で手を振った。「あの女によろしくは言わなくていいからね」

 いつも氷野を見送る東海道新幹線の改札の内側に入って新幹線に乗り込んだ。富士山に少しテンションが上がる。名古屋。京都。新大阪に着いたのは夕方だった。新大阪から地下鉄に乗り換えた。相変わらず大阪はわちゃわちゃしていた。

 ひとつわからないことがあった。寺山晃三というのが義父の名前だ。母は再婚し、寺山ハツになったはずだった。けれどメールにはこうあったのだ。
 喪主 田所ハツ

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