御託はいいよ。おまえは誰なんだよ(鏡に向かって)。

永里蓮

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xyz♯20
第一章「永里蓮、スロットに出会う」



 ハネくんの同級生が死んだのは、1996年6月のことだそうだ。他愛もない飲み会のつもりだった。が、同級生のひとりが言い出したゲームのせいで、ひとりの同級生が死んだ。ハネくんはそのことがきっかけで、少年院に収監された。

「それ、ハネくん関係ねえじゃん」おれは言った。

「関係ないってわけにはいかない。どっちも友だちだったんだ」

「友だちっつったってさ、人を殺すようなゲームを考えるやつと友だちなんて……」

「それでも、友だちだったんだ」

「……」おれはタバコに火をつけて煙を吸い込んだ。最近タバコの量が増えたような気がする。カートンでもらったせいかもしれないな、と思う。

「なあ、蓮。オナニーが殺人じゃないことを論理的に説明できるか?」
「何の話?」
「いや、マジメな話」
「……精子ってのは生命の素材かもしれないけど、生命そのものじゃない。唾を吐く。涙をぬぐう。かさぶたを剥がす。本質的にはそれらと変わらない。そんな感じ?」

「それでも可能性が消滅したことには変わらないだろ?」ハネくんはビールのお代わりを頼んだ。

「そんなこと言ったら何だって殺人になっちゃうじゃん。ひとつを選択したら他のすべては死ぬんだから」

「うん。まあ、その認識で正しいんだろうな」
「……」

「じゃあさ、その調子で次はおまえの強さを論理的に説明してみてよ」

「強い?」おれは言った。

「タフっつうか。少なくとも人と一緒じゃなきゃ何かができないってタイプじゃないだろ」

「複雑な家庭環境」

「親のおかげってことか?」
「……」

「おまえさっきキャバクラでねーちゃんにほめられてイラついてたじゃん? 何で?」

「顔とか身体的特徴っておれ関係ねえじゃん。1ミリも関与してねえとこほめられたところで何なの? 母ちゃんありがとうって?」

「初対面でおまえのパーソナリティをほめろって? それは甘えだ」

「甘え?」

「ああ。おれはこんなにも素晴らしい人間なんだ。見てくれよりもずっといい男なんだ。本当のおれをほめてくれよ。頼むよー」
「喧嘩売ってんの?」
「いや、逆。面白いなって」
「……」

「くっくっく」とハネくんは笑った。「おまえの弱点発見」

「弱点?」

「おまえ案外さ、かっこつけなのな。うんうん。そういうの人間らしくて好きだぜ」

「……」

「お待たせいたしました。生ビールです」

 ジョッキを手に取って一口飲んだ後、タバコに火をつけた。灰皿を見ると、自分が吸っていたタバコが煙を上げていた。

「くっくっく」ハネくんは笑った。
「笑うなよ」 そう言いながら、1本のタバコの火を消した。

「なあ蓮」ハネくんは真剣な表情で言った。「おまえに頼みがある」

「何?」

「おまえの力を借りたい」
「おれの? 何でよ。ハネくん友だちいっぱいいるじゃん」 

「おまえはおれが今まで見た中で一番寂しそうな顔をしてる。人間、強ければ強いほど寂しい。矛盾してるように聞こえるかもしれないけどそういうもんだ」

「強くねえよ」おれはそう言ってビールをぐいっと飲んだ。

「ってのは建前だな。すまないが、おまえの家を調べさせてもらった。おまえの母親の旧姓は田所。おまえの親戚筋にあたる人物に田所寛治という人がいる。この人に話をしにいくのにおまえの口添えが欲しい」

「誰それ? つうか自分の復讐に他人の手を借りるの? ダサくね?」

「もちろん違う。おれはその人の弟子になりたいんだ。それに、おまえは誰それって言うが、おまえに武道だか格闘技の手ほどきをしたのはたぶんその人だぞ」

「は?」


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