関東で生まれた。関西で育った。でも、どこにも居場所なんてなかった。何でだよ。そんな風に悩んだこともあった。今思えばその設問が悪かった。どこで生まれようと、どこで育とうと、それは所詮、過去のこと。

永里蓮

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xyz♯19
第一章「永里蓮、スロットに出会う」



「つうかおまえ強いな」ハネくんはビールをゴクゴクと一気に飲み干した後で言った。「イマ中のエンジェル伝説って言ったら有名だったんだけどな」

「何だそれ?」と言って笑った。「だせえ」

「なあ、おれの話してもいいか? それとも、おまえの話聞くか?」

「何、その二択」

「おまえは人の話を聞ける人間か? それとも、自分の話しかできない人間か?」

「……人の話聞くの苦手かも」苦々しい顔でおれは言った。

「だろうな。じゃあ、まずはおまえの話をおれが聞く。その代わり、おまえもおれの話を聞いてくれ」

「別におれ、自分の話したいとかもないんだけど」

「ダメだ。交換条件だ。おれはおまえの話を真剣に聞く。おまえはおれの話を真剣に聞け」

「……何を話せばいいんだよ?」

「あ、すいません、生ふたつおかわりね」ハネくんは店員にそう言うと、マルボロのボックスを取り出してタバコをくわえた。「蓮、おまえが人生でぶつかった一番デカイもんって何?」

「……どういうこと?」

「人間、19年も生きてりゃ何かにぶつかるだろ。無傷でいられる人間なんていない」
「おれ17歳だけど?」
「そうだったな」 ハネくんは笑った。

「……ぶつかりまくりだよ」おれは言った。

「それは本当に違うものなのか? 同じもんにぶつかってんじゃねえ?」

「……ん?」

「不運、だろ?」

「父親が自殺した。それって不運?」おれは聞いた。「義父の会社が倒産した。それって不運?」

「……不運だな」

「不運なんて言葉で片付けられるかよ」おれは吐き捨てた。

「でもな、蓮、おまえの人生の敵はそいつだ」そう言ってハネくんはジョッキを掲げた。

 おれは泡の消えてしまったビールジョッキを持ち、ハネくんの持つジョッキにぶつけた。カン、という小気味いい音がした。

『乾杯』

 ゴクゴクとビールを飲んだ。感情が泣いていた。でも、涙を流すわけにはいかなかった。おれはその感情を呑み込むようにビールを飲み続けた。ジョッキを空けてしまうと、ポケットからクールマイルドを取り出して吸った。
「不運って敵なのかな」おれは言った。
「敵だろ」
「何でおればっかり、みたいなことを思ったことはある。でもおれ、今は自分が不運とは思ってないよ。……うまく言えないけど」
「そっか」
「うん」 

「おまえの気持ちは聞いた」ビールをゴクゴクと飲んだ後でハネくんは言う。「喋ってくれてありがとう」

「……」自分でもどうしてほとんど初対面の人間にこんなことを言ったのかわからなかった。氷野に話したことでタガが外れてしまったのか? それともおれの中で感情が薄れてきているのか? わからなかった。

「おれの話聞いてくれるか?」

「うん」

「おれがこの年で通信に通ってるのは少年院にいたからだ」

「少年院?」

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