未来を占うよりも、過去を懐かしむよりも、現在地を見なければ

永里蓮

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xyz♯16
第一章「永里蓮、スロットに出会う」



 ん?

 ふと、思う。この店が7枚交換ということは、5枚につき2枚を店に徴収されるのだ。

 コインは1枚20円、1000円で50枚を借りている。しかし7枚交換の場合、それをそのまま流すと500円と端数(15枚)にしかならない。つまりコインを借りるだけで価値が減少してしまう。1000円分の特殊景品を得ようとすれば70枚が必要。が、特殊のつかない景品はその限りではない。缶ジュースは6枚でもらえるし、250円のマイルドセブンなら13枚、280円のマルボロなら14枚で交換できる。マイルドセブンは260円取られるから損。おれの吸うクールマイルドは280円だからセーフ。そう考えると、特殊景品をもらうよりも、日用品でもらった方が得ということになる。コインを流してからカウンターに向かう短い時間でこんなことに気づくなんて、おれ天才じゃね? パチンコを打ってるときに気づかなかったことには目を伏せ自画自賛。タバコの賞味期限はよくわからないけれど、まあ3ヶ月は大丈夫だろう。
「すいません」とおれは言った。「クールマイルドを90箱ください」

「……ええと」30~40代の女店員は困惑の表情を浮かべた。「ちょっと待ってくださいね」

「はい」

「ええと、ソフトとボックスを合わせても6カートンしかないですねえ」

「わかりました。じゃあ、残りの3カートンはマルメンライトをください」

「はい」

「残りは普通に交換してください」

「かしこまりました」

 おれが得たのは3500円分の特殊景品とタバコが90箱、グレープ味のハイチュウ1個。タバコ9カートンが想像以上に大荷物でまいったが、不思議な達成感があった。1260枚を換金すれば2万に満たないが、おれの手元には25200円分の商品と3500円分の特殊景品があるのだ。暗い交換所で3500円を受け取ると、タバコを吸いながらおれを待っていた羽生くんが言った。

「おまえ、行商でもするつもりか?」

「いや、こっちのが得かなって」」

「そりゃ得だよ。でもこの店は、つうかあの店員だったから換えれたかもしんねえけど、あんまり目立つことしてっと禁止になるぞ。上限2カートンとかの店もあるし」

「……そっか」

「永里、おまえ家は?」

「在原です」

「へえ、近いじゃん。おれ今間」

「へえ。っつってもおれこの辺が地元とかじゃないんで、全然ピンと来ないすけど」

「あ」そう言って羽生くんは顔色を変えた「そうじゃん。おれ明日現場じゃん。ちっ。はえーんだよなあ。なあ、永里、勝った金でどっか飲みいこうかと思ってたんだけど、また今度ってことでいい?」

「おれそんな予定立ててなかったんで問題ないですよ」そう言っておれは笑った。

「じゃあまた学校でな」

「あ、羽生くん、今日はありがとう」

「いいっていいって。じゃあな」そう言って羽生くんは走り去った。
 

 電車に乗って在原駅で下車。ポツポツと雨が降っていた。雨に濡れた商店街の匂い。9カートンを持つ手の疲れが心地よかった。この瞬間から、おれはパチ屋で稼ぐことを真剣に考えはじめたような気がする。帰り道のコンビニの棚にあったスロット雑誌をすべてカゴに入れて購入。

 1999年6月29日、今日のことを忘れないようにしよう、と心に決めた。

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