自分探し? あれは人生の汚点だ。ははは。

永里蓮
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xyz♯14
第一章「永里蓮、スロットに出会う」



 眠い目をこすりつつ外に出た。ラブホ街の上の空は青かった。氷野の提案で原宿、渋谷、代官山、と歩くことにした。

 代官山と恵比寿の中間あたりにある公園でタバコを吸いながら、「何でこんなに服屋あって商売成立するんやろな」と氷野は言った。

「需要と供給」おれは知ったようなことを言った。

「いや、供給過多やろ。どう考えても」

「文化とかステイタスみたいなもんもあるんちゃう?」

「でも可愛い店いっぱいでうらやましいわ。蓮、あんたこっち住むんやろ?」

「うん……」

 恵比寿駅の前にあったウェンディーズで遅い昼食を食べた後、夕飯までには帰らな、と言って氷野は新幹線で神戸に帰っていった。おれはまた泣いてしまった。一度泣くと癖になるのかもしれない。氷野も泣いていた。が、現実的に東京で氷野と一緒に暮らすのは不可能だった。そんな力はおれにはなかった。
 

 選択肢はほとんどなかった。おれは死んだ父の母、つまり祖母に頭を下げ、居候させてもらうことにした。それから通信制の高校に入り直すことにした。祖母の家は23区の外れにあり、祖母は見た目も年齢も、いわゆるおばあちゃんという感じではなかったので、ふたりで歩いていると親子に間違われた。といっても祖母が家に帰ってくるのは週に半分くらいのもので、たまに路上で見かけるときは、いつも違う男を連れていた。

 祖母はおれの母親が大嫌いだった。私の息子はあいつに殺されたと言ってはばからなかった。だから「いいよ。2階は好きに使いな」と言って居候を快諾してくれたのには驚いた。そんな祖母の趣味はパチンコだった。
「蓮、パチンコ行くよ」と言われると、ついていかざるを得なかった。ヒマと言えばヒマだったし、勝ったときはおこずかいをもらえたし、それはそれでありがたかったし。

 そのうちに、おれはパチンコというギャンブルに攻略の糸口を発見してしまった。その現金機はヘソクギが少しだけ右に上がっていて、明らかに他の台よりも回るのだった。その店のクギはおれの見る限り、毎日変わらなかった。なあ? おれは誰かに問いかけた。これだけ打ってれば勝てるんじゃね? 

 祖母は日によって打つ台を変えていた。というか、打つ店を気分によって変え、当たらなければすぐに違う台に移動するし、かかるリーチの種類によって粘る粘らないを決めたりしていた。そのくせ、そんなに負けている感じでもなかった。当たる台が光って見える、と本人は言うが、そんなはずがない。まあいい。自分のお金をどう使おうと祖母の勝手だ。おれは毎日その右上がり台を打った。そのうちに当たる当たらないは運。回る回らないが勝負を分ける唯一の鍵と気づいた。3週間後、貯金が345万円まで増えていた。

 その店はおれが連日打っているにもかかわらず、クギを一切いじらなかった。これさ、永遠に勝てるんじゃね? また誰かに問いかけてみる。しかしそんなことはなかったのだった。
 

 その台のみを打ち続けて一ヵ月。台に座った瞬間に違和感があった。微妙ではあるが、クギがいじられている、ような気がした。いや、これはどう考えてもいじられている。どうしよう。……それでもあきらめのつかないおれは、500円を入れて打ってみた。あきらかに玉の動きが違った。もう500円。500円、500円。計5000円。おれの楽園が崩落したことを、おれは知ったのだった。


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