わかってんだろ? というやつはわかってない。間違いない。

永里蓮
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xyz♯13
第一章「永里蓮、スロットに出会う」 



「こんな贅沢しててええん?」氷野は言う。

「記念日やん」さっきまで死のうとしていたおれは、義父の金を我が物顔で使うのだった。

 少しだけ背伸びしたご飯を食べた後、タクシーに乗ってラブホテルまで連れて行ってもらった。

 こんなに興奮したセックスは生まれて初めてだった。興奮? いや、感動のあまり泣いてしまった。つられた氷野も泣いていた。空白を埋めるように、おれたちは体を求め合った。もちろんそれはおれの主観だ。氷野の反応が以前とは違うような気もしたし、変わらないような気もした。知らん。主観なんて土台アテにならん。氷野が今ここにいてくれていることに、おれは神に感謝を捧げたい気持ちでいっぱいだった。

「蓮、どしたん?」氷野は言う。

「何が?」おれは聞く。

「積極的過ぎひん?」

「そう?」

「復活はやない?」

「そう?」

 言葉が邪魔だった。おれは性感帯そのものとなって氷野に触れていた。頭がおかしくなるくらい氷野は魅力的だった。おれは一切の思考を放棄して、氷野の体内に出入りした。出しても出しても精子はどこかから溢れてきた。そのすべてがコンドームの中で死に絶えた。


 氷野は中三の頃のクラスで一番可愛いと思った女の子だった。もちろん世の中には氷野よりも目鼻立ちの整った女性は何万といる。その中の誰かが同じクラスにいたとしたら、おれはその誰かを好きになっていたのかもしれない。恋愛なんて出会うかどうか、それだけだ。だって出会う前はその人のことを知るわけがないのだ。可愛い子に出会う。喋る。触れたいと思う。もう好きの入り口に立っている。その気持ちは未来の感傷の素になる。


 綾香が殺されたとき、容疑者として有力視されていたのは綾香の両親だった。

 綾香の父親は、巨人ファンであることのみを誇りにするという冴えないイメージがあり、綾香の母親は料理が下手で感情を表に出すのが苦手なイメージしかない。そんな人たちが我が子を殺すか? もちろん、おれは今まで人を殺した経験のある人間に出会ったことがないうえに、おれ自身人を殺したことがない。ゆえにどういう人間が人を殺すかなんてさっぱりわからない。本当にわからないのだ。誰がどのような理由で綾香を殺さなければいけなかったのか。

 おれは推理小説やその類の物語が嫌いだ。必ず犯人が判明するからだ。おれの前に広がるこの世界は違う。考えても願っても、その犯人が見つからない世界なのだ。

「犯人がわからない」

 わかっていることは、綾香は東京湾から引き上げられた盗車のトランクの中で発見されたということ、死因は溺死ということだけだ。

 綾香が自殺した? 海に向けて走る車のトランクに自ら入る? 小四の女子が? どうして? 誰かに手伝ってもらった? 何で?

 おれは漠然と、人生の最終目標を定めていた。

「綾香を殺した犯人を殺す」

 もし、おれという人間を中心にしてこの世界が成り立っているのなら、綾香を殺した人間はラスボスだろう。おれの人生を誰かのせいにするとしたら、まず間違いなくそいつのせいだ。おれはそいつを打ち滅ぼして、めでたしめでたしを得るのだ。

 が、この世界はおればかりを中心に成立しているわけではないらしい。たとえばイチローは神戸という共通項はあるにしても、おれの人生とはほとんどまったく関係のない世界で今日もヒットを打つ。

 というか、おれを主人公として認識している人間はおれ以外この世にいない。おれなんかの物語を読みたい人なんていない。でも、それでもおれはおれ以外にはなれない。だからおれという主人公の物語では、綾香の事件は永遠に解けることのない、たとえば「おれはどうして生まれたんだろう?」みたいなフォルダに入って、幸せストッパーとしての役割を如何なく発揮し続けるのだ。


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