いいじゃん言い訳。生きたい言い訳の死にたいよりずっといい。

永里蓮
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xyz♯12
第一章「永里蓮、スロットに出会う」 



 ポケットの中で携帯が震えていた。震える指で通話ボタンを押した。

「蓮、今どこおるん?」声の主は周りの雑音に負けじとキンキンした声でそう言った。

「氷野……?」

「あんたいつから泣き虫になったん。うち東京駅着いてんけど」

「は?」

 おれは彼女の言っている言葉の意味がわからなかった。

「どこおるん?」氷野は言う。

「上野、やけど……」

「上野と東京って近いやろ。はよ迎えに来て」

「おまえマジで言ってんの?」

「あんた、この、四方八方から聞こえる東京弁聞こえへんの? じゃんじゃんゆうてるやん。じゃんじゃんばりばり」

「それパチンコや」

「ほら、ちょう、超超超。心細いからはよ来て」

「……何で来たん?」

「あんたが来いゆうたんちゃうかった?」

「ゆうたけど。来おへんゆうてたから」

「大和撫子なめたあかんで。それとも来たあかんかった?」

「いや」

「嬉しいなら嬉しいってゆうて。迷惑やったら迷惑ってゆうて。うちも色々振り切って来てんから」

「嬉しい」

「どれくらい」

「これくらい」

「あんたには成長ゆうもんがないんか?」

「超嬉しい」

「何、東京にかぶれとんねん」

「超好きだ」

「超やめろや」

「超好きだってマジで」

「ただでさえ超超うるさいねんから、ええからはよ来い」

「はい」

 おれは西郷どんと犬の像に頭を下げて、走り出した。階段を下り、交差点を渡り、切符を買って改札に入って山手線に乗った。急く気持ちが止まらなかった。もしあの電話がウソだったら、ドッキリでした、と言われたら? 急く気持ちが膨張して増長してどうしようもなかった。東京駅に着き、ホームに降りて電話をかけた。コール音が鳴っている。1回、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回、10回……留守番電話に切り替わる電子音が聞こえる。マジで? 何なん? 電話を切り、ホームに立ち尽くした。ポケットの中が震えていた。

「もしもし」と言った。

「ごめんごめん気づかんかった」

「いやいや、おかしいやろ。行くゆうてんねんから構えとけや」

「なあ、蓮、その急性ヒステリック症候群みたいのやめへん? 病気がちな王女様みたいやで。あんたそんなやつちゃうかったやん。もっとどっしりしといて。心細いんはこっちも同じやから」

「……ごめん」

「ほんで、東京駅着いたんやな」

「うん」

「銀の鈴ってとこおるから探してきてや。この駅広すぎて何々改札とかじゃ会えへんわ」

「わかった」

 いつもの制服よりも断然短いスカートに黒いタイツ、アディダスのスニーカー、白いニットの上にベストのダウンをはおった女子高生、氷野アキは銀の鈴というオブジェの前に立っていた。

「久しぶり」と言った。

「久しぶり……やったっけ? 三日くらいのもんやろ」そう言って氷野は小悪魔的な笑みを浮かべた。「ああ、蓮の顔みたらお腹空いた。何か東京っぽいもん食べようや」

「何やねん東京っぽいって」

「知らんけど、何かあるやろ。ミニーちゃんに会いに舞浜でもええよ」

「いらんわ」

「ほなどっか連れてって」

 神様、仏様、さっきのなし。こいつがいるなら死ななくていいや。そう思った。 

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