おまえらの頭が悪いのはおまえらのせいじゃない。おれのせいだ。すまん。

永里蓮
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xyz♯10
第一章「永里蓮、スロットに出会う」 


  そもそもの話。何をしにおれは東京に出てきたのだ? 関係が終わったはずの氷野に電話して、愚痴ってわめいて、おれは何をしているんだ? 

 最後に観光でもしよう、と思った。金はある。死ぬのはいつでもできる。死に場所を探そう。東京駅の構内に入り、路線図を見上げた。


 ……何だこれ。何路線あんだよ。こっちで暮らしているときは、社会に属しているという意識もないままに、ただ生きていただけだった。だから親に連れられ都内に出ても、何の感慨もわかなかった。巨大であるとか都会であるとも思わなかった。が、今、こうしてひとりでこの世界有数の、というか圏内域で世界最大の人口を抱える大都市圏のメインターミナルのキップ売り場で路線図を見上げていると、やはり驚かないわけにはいかなかった。自分の矮小さに、である。

 ちっぽけな自分の発見は、精神に不思議な高揚を与えていた。暗い高揚だった。手始めに渋谷に行ってみようと思った。東京よ、もっとおれに、もっともっとおれに絶望を与えてくれ。
 切符を買い、改札を抜け、山手線を探し、探し、探し当ててエスカレーターを上り、すぐにやってきたピカピカの銀色×緑色の車両に乗り込んで、雨の上がった灰色の街を眺めながら、つり革につかまりゆらゆら揺られた。

 渋谷駅着。ハチ公口を出る。交差点の信号が青になる。人の塊が横断する。赤になる。車が行きかい、その間に人が溜まり、青になり、人の塊が横断する。毎回、毎回、毎回、毎回、律儀に律儀に同じことがくりかえされる。ニュースや映画は誇張も何もしていなかった。映像そのままの現実だった。こいつらはどこに行くんだろう。その謎をつきとめようと、気後れしつつも交差点を渡った。が、一塊に見えた群集も、交差点を渡った後、各々が別の場所に向かっていくのだった。おそらくは目的地があるのだろう。目的がなさそうな人間は概して観光客風の装いであり、何種類かの知らない言語が聞こえた。関西弁すら。

 不思議なことに、おれの一人称的な認識は標準語に戻っていた(向こうでは標準語なんて言わない)。とりあえずセンター街に入った。これだけ人を吸い込む道だ、何かがあるのだろう。

 と、後ろから誰かに声をかけられた。

「あのお、今、何か、困ったことはありませんか?」

 ピンク色のサングラスをかけた、いかにも怪しいおっさんであり、おれは条件反射的に、「うっさいボケ、去ねやおっさん」と言っていた。ん? 標準語はどこに行った? まあいいか。おっさんは苦笑いを浮かべてどこかに消えた。後々知ったのだが、このおっさんは、この界隈ではそこそこの有名人らしく、家出人を保護したり、犯罪の芽を摘んだり、ボランティアで正義の味方をしている人だったらしい。悪いことをした。が、このときのおれは死ぬ予定だった、罪悪感など毛頭なかった。

 正味の話、理不尽なのはおれだった。早朝にかかってきた電話で「東京に来い」と言われ、実際に来てくれる女子高生がどこの世界にいる? 通常ありえない、理不尽な要求が受け入れられずに落胆し、憤慨し、死にたがっていた。自分探し? 自分で自分がよくわからなかった。

 つうか、腹減った。おれは目についたファストフードのチェーン店に入り、クソまじい、と思いながら腹を満たした。外に出て、タバコを吸った。観光には飽きていた。だいたいおれは観光が嫌いなのだ。関西住でありながら大阪城にも姫路城にも足を踏み入れたことがなく、奈良は一度、京都にだって数えるほどしか行っていない。翻り今、ひとり知らない街で立ち尽くす。絶望的に退屈だった。あれほど望んでいたはずの絶望も、退屈がつくと死を後押しする力にはならなかった。

 あーあ、と思う。イライラする。おれが望んでるのはこれじゃない。もっともっと絶望的な状況だ。小さい頃のファミコンの、何だっけあれ、タイトルは忘れたけど、主人公が敵に触れられただけで死亡する、そのくせ操作性がびっくりするくらい悪い、悪夢のようなアクションゲーム、あんな感じの状況がおれの望むものだった。よし、無理だ。これは無理。こんなのは無理。おれは力を尽くした。それでも無理だった。無理なものは無理だった。しょうがない。さらば現実。という風にいきたかった。逝きたかった。

 が、リアルな東京はおれに無力感を与えてくれはしなかった。巨大に見える都市だって、その実、人が多い、それだけのことじゃないか。ビルが大きい、背が高い。それだけのことじゃないか。これで人が全然いないのなら驚愕もするけれど、身の丈に合わせているだけだ。アホほど人がおる。金を使う。そらビルも大きくなる。別に驚くことでもなんでもない。ただの足し算じゃないか。三宮だってそこそこ大きい。それが延々と続いているだけだ。人の数に合わせて、国の首都という面目にかけて。別に何てことない。そもそもここはおれの生まれ育ったベッドタウンから起き上がった人々の向かう先であり、不慣れな土地でもないわけだし。何だよ、東京。タバコを消して、携帯灰皿に沈める。おれは歩き出す。でも、どこへ?


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