無駄なことなんてひとつもなかった。そういうことにしておこう。

永里蓮
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xyz♯9
第一章「永里蓮、スロットに出会う」



 マンガ喫茶で氷野を待つことにした。
 三宮のマンガ喫茶で読んだ続きのドラゴンボールをどさっとリクライニングチェアの前のテーブルに置き、ゴクウにとって三度目の天下一武道会に入っていく。

 ドリンクバーをお代わりすること数回、ナメック星に乗り込んだ地球人たちが、サイヤ人ナメック星人と結託してフリーザと戦っていた。フリーザのその、あまりにも無慈悲な戦闘力が明示された途端、携帯が鳴った。氷野だった。おれは個室を出て、携帯電話ブースに入り、通話ボタンを押した。

「なあ、蓮、やっぱりうち行かれへん」

「は? 何で?」

「ミキモトさんがあかんって言うねん」

「は? ミキモト関係ないやろ」

「けど、そもそもはあんたが悪いんやろ。あんたがあんなこと言わんかったら、ミキモトさんと付き合うなんてありえんかったのに」

「今さらそんな話すんなや。さっき来る言うたやん」

「ごめん」

「ちょおマジで来おへんの?」

「ごめん」

「マジで言うてんの?」

「ごめん」

 足元がぐらぐらと揺れていた。地震かと思ったが、違った。おれの体が震えているのだった。とても立っていられなかった。

「……おかんと再婚した人の会社が潰れてもうてんやんか。ほんでおれ、もうそっちにいられへんねやんか」

「……」

「……おれのおとん、自殺してんねやんか」

「……」

「……おれ、どうしたらいいかわからんくて」

 さっきはオブラートに包んでごまかした個人情報を口走っていた。自分の弱みを見せることで同情を狙っているのか? 自分でも自分で言っていることの意味がわからなかった。明らかにおれは取り乱していた。泣きわめく一歩前、というところだった。

「蓮、ごめん」氷野は泣いていた。

「氷野。マジで、頼むって」

「蓮、ごめん」

「氷野の中でおれはもう必要のない人間なん?」

「そんなことない」

「ミキモトとおれやったらミキモトを選ぶん?」

「そんなんちゃうって」

「ほな何なん?」

「ウソつきたないねん。一回付き合う言うてもうたのに、すぐに撤回なんてできひん」

「おれと付き合うじゃあかんの?」

「蓮、帰ってきて。それでミキモトさんに言うて。うち、誰かにウソつきと思われたないねん」

「ええから東京来いって」

「行かれへん。蓮がこっち戻ってきて」

「なあ、氷野、おれ、氷野が好きや」

「うちも蓮のこと好きやで」

「ほな何であかんの?」

「ひとりで新幹線乗ったことないし」

「ちょ、マジで、三時間やん」

「蓮がホンマに東京おる確証ないやん。うちが東京行って蓮がおらんかったら、それこそ生きてかれへん」

「いやいや、マジで、東京やって」

「そういう問題ちゃうねん」

「なあ、氷野」

「ごめん。ホンマにごめんっ」

 電話が切れていた。おれは叫んでいた。男性店員が青白い顔でかけつけてきた。冷静にはちっともなれなかったが、清算をして、外に出た。雨は止んでいた。

 死のうと思った。もうそれしかないと思った。無理だ、この理不尽な世界は。


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