人生には真の魅力はひとつしかない。それは賭博の魅力である。

シャルル・ボードレール

スロ小説♯36

本作はフィクションであり、実際の人物、団体、事件などとは一切関係ありません。
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赤いライオン、或るスロッターの明るい部屋 ♯37
 
 

「おい、類、パチ屋行くぞ」レンくんの声で起きる日曜の朝。

 父親と母親はまだ寝ているようだった。

「行ってきます」と言って外に出る。

 外は快晴。これ以上ない条件を提示されたような空模様。なぜに我々は、こんな日にパチ屋に向かっているのだろう?

「天気、いいね」と言った。

「ああ」それが何か、というように、レンくんは返す。

「レンくんはこれでいいの?」

「ん?」

「パチ屋に行って、期待値追って、それだけの人生でいいの?」

「それだけじゃない人生って何だ? 『地位』『名誉』『金』『女』バカの4点セットか?」

「おい、口わりいぞ」

「本当のことだろ。頭わりいやつは求めるしかない。本能ってやつの限界だ。それじゃあどこまで行っても幸せにはなれない。本能の目的は『ここではないどこか』『自分ではない誰か』つまり、可能性の分散と延長。ここから無限へ。永遠へ。でも、その視点じゃ今ここにいることができる幸せに絶対に気づけない」

「レンくんは今、幸せなの?」

「おれはめちゃくちゃハッピーだぜ」

「……マジ?」

「こんな幸せなことねえくらいに思ってるよ」

「マジで? どこが? つうか何が?」

「パチ屋に行けば期待値が落ちてる。悲観的なバカは不安に耐え切れずにやめる。楽観的なバカが夢を求めて入ってくる。おれだけはずっとハッピー」

「死神かよ」と言って苦笑した。「もう記憶を取り戻すってやつはどうでもいいの?」

「もうどうでもいいのかもな。別にないならないで困んないし。今はおまえの生活をおまえのそばで見てることが楽しいし」

「は?」

「おまえ、自分じゃ気づいてないかもしれないけど、相当面白いよ」

「何が?」

「初代獣王の設定6って感じ」

「どういう感じだよ」

「ハズレを引くたびにサバチャンがほぼ確定する」

「何だそれ」

「期待値が高いってこった」

 カタツムリ図書館を抜け、桜並木を抜け、道を何回も右折左折して駅前に着く。電車に乗って3つ離れた駅で乗り換えて、そこから8つ目の駅で下車。駅前にあるパチ屋には100人超の列ができていた。


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 どうして抽選を待つ時間ってこんなにも幸せなんだろう? その抽選システム自体が捏造されたものであることを疑いもせずに、ただ、待っている。俺たちは待っている。抽選の時を。レンくんにそんなことを言ったらバカの一言で済まされてしまうに決まってるのだけど、それでも何回経験しても、それでもワクワクしてしまうのだった。中毒性! 中毒性! 中毒性!

 箱の中に手を入れて、紙切れを一枚引き抜く。ズルをしようとすればいくらでもズルができそうなこのシステムで、案外ズルが起きないのは神社仏閣のおみくじという神聖なイメージがあるからかもしれない。

「何番だった?」とレンくんに聞くと、レンくんは1番と書かれた紙切れを黙って掲げた。

「勝ち確じゃん」

「1/2で設定6に座れるだけだろ。おまえは何番だったの?」

「111番」

「ハナハナ、マイジャグ、みんジャグ、ハピジャグの順番な」

「うん」

 このイベントの特徴は、開店時に鳴る音楽から連想できる台を含むシマが1/2で全6ということ。もちろん大々的に謳っているわけではないが、ほとんどの客は知っている。それにくわえ、枠上に七が揃っている台も1/2で設定6。リプ揃いが1/3で設定5。ベル揃いが1/3で設定5という引っ掛け問題も用意されている。

「走ってはいけない」というルールがあるため、開店と同時にはじまるのは競歩大会だった。その先頭にいるのはレンくんだ。遥か後方にいる俺にその姿は見えない。でもわかる。店内から漏れてきたのはバジリスクの主題歌「甲賀忍法帖」だった。


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 俺が入場する段になっても甲賀忍法帖はまだ鳴っていた。ハナハナのシマに辿りつくと、1台だけニューキングハナハナに空き台があった。とりあえずその台を入場順番券で押さえ、店内を回った。レンくんは首尾よくバジ絆の角2(端から2番目の台という意味)に座っている。かつてレンくんに言われたことがある。

「いいか、115~9%程度の台を狙うなら最低でも1/3でツモれる状況、110%程度の台だったら1/2でツモれる状況を確保しろ。それ以下だったら設定を狙う意味がない。パチンコを打つか、ハイエナしてるほうが効率がいい。つうわけで、大切なのは店選び。入場する時点で勝負はほぼ決まってる」

 イエッサー。俺は一万円をコインサンドに投入し、ハナハナを打ち始める。


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 ねえ、神様。どうしてこのランプがチカチカした瞬間にこんなにも気持ちよく感じる体に人間をおつくりになったのですか? どうしてジャグラーはペカ。ハナハナはチカ。なのですか? 神様。
 ねえ、神様。どうして今日の俺の左手はこんなにもチカ乱数をズバビタで直撃してしまうのですか? 俺様が選ばれし者だからですか? 神様。

 BIG中のスイカ確率、REG中のサイドランプの割合、BIG終了後のパネルフラッシュ、ベル確率すらも、6をぶっちぎってるのはなぜゆえですか?

 ふっふっふ。これが設定6だからである。と俺は思う。俺の頭上にはすでにドル箱が3箱積まれている。俺の技量では、1箱に入る30パイのコインはだいたい1000枚だから、下皿の分を入れると3500枚程度。見る限り、ハナハナのシマは1/2で6っぽい。続いていた100ゲーム以内の連チャンが途切れたところでトイレに行って、缶コーヒーを買うついでに店の状況を見ることにした。

 ……出てるねえ。今日めっちゃ出てる。グランドオープンか、くらい出てる。やっぱ等価じゃなくなってよかった面もあるのかな。どうなんだろう。

 レンくんは、というと、レンくんも頭上に3箱のコインを積んでいる。しかし彼の木の葉積みレベルからすると、すでに5000枚を超えてる。……やるな。


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 チカ。チカ。チカ。チカ。子どもが生まれたらチカちゃんにしようかな、というくらいのチカり具合。

 そんなことを思っていると、ユキちゃんからメールが届いていた。

「類さん、明日ヒマありますか?」

「ヒマ、あります」と即答した。 
「見たい映画があるんですけど、行きません?」
「行きましょう!」
 

 この日、俺とレンくんで出した枚数16808枚。帰りに少しだけ飲んで、帰宅。
「じゃあ早く寝ろ」とレンくんに言われ、「うん」と言ったが、初デート! と思うとなかなか寝付けなかった。


つづく


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