人生には真の魅力はひとつしかない。それは賭博の魅力である。

シャルル・ボードレール

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スロ小説♯3
スロ小説♯4

本作はフィクションであり、実際の人物、団体、事件などとは一切関係ありません。
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赤いライオン、或るスロッターの明るい部屋 ♯5


「起きたか」

 そこはどこかの一室だった。あれ? 俺どうしたんだっけ。あれ?

「おまえは6時間寝ていた。もう朝だ」

「え?」
 ってぇ……首が痛かった。目の前には永沢君がいた。しかし昨日とは違い、髪をポマードか何かでピッチリとオールバックにして、ストライプの入った黒いスーツを着ている。メガネもない。まるで別人だった。

「いいか」永沢君は言った。「3ヶ月で200万を稼げ。自分の才覚でやるもよし。俺の指図に従うもよし。どちらにしろ、3ヶ月だ。おまえが肝に銘じるべきは、3ヶ月、そして、200万。それだけだ。わかったな」

「あの、永沢君」

「……言い忘れてたけど、おれの名前は毎日変わるから。その都度対応しろよ。もちろん、ミスったらアウトー」昨日まで永沢君だった人は、野球のアンパイアがするようなしぐさで親指を宙に掲げた。

「じゃあ俺の名前も変わるんすか?」

「おまえ、なかなかいい感性してんな。その感性に免じてカキゴオリで固定してやるよ」

 ありがとうございます、と言いそうになって、おかしい、と気づく。「あの、何でかき氷なんすか?」

「おれはいちご味が好きだな。溶けたら赤い液体だけになる」

「……」

「今日のおれの名前は永野だ」

「またマンガすか?」

「マンガ……スラムダンクだな」

 スラムダンクは何度か読んだはずだけど、永野という人物は思い出せなかった。……ああ、角刈りっぽい湘陽のフォワードか。何の意味があるんだろう?


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「意味なんてない」俺の心を見透かしたように永野は言った。「カキゴオリ、今日はR駅の駅前にあるSって店に行け」

「指定するってことは何かあるんすか」

「おまえがするのは、ウチコっていう仕事だ」

「ウチコ? サクラってことですか。あれ都市伝説かなんかじゃないんですか?」

「ハハ」永野は乾いた笑みを浮かべた。「なあ、おまえって何なの? ボンボンなの? それともマジでパッパラパーなの?」

「いや、普通だと思いますけど」

「じゃあよっぽど甘やかされて育ったんだな」

「わかんないすけど」

「~けどって禁止な。おまえには否定する権利も保留する権利もない。わかったか?」

「……」

「カキゴオリ、おれは今、わかったか? と聞いた。返事は?」

「……はい」

「なあ、パチ屋がどうやって儲けてるか知ってるか」

「打つ人がいるから、すか」

「そうだ。打つ人がいるから儲かる。人が打てば打つほど儲かる。つまり、だ。普通に打ったら、絶対に負ける。そこまではわかるか?」

「はい」

「嘘つけ。わかってねえから借金なんかしたんだろ。まあいい。あのな、スロットの設定6だったり、パチンコのぐるんぐるん台だったり、絶対に儲かる話が存在するって変だと思わないか」

「どういうことすか?」

「おれたちのいるのは灰色空間なんだよ。ともかく、R駅のSって店に行って抽選に参加しろ。今日はこのスウェットの上下で行けよ。心配すんな。おれが昨日着てたスウェットとは違う。新品だ。おまえの見かけは伝えてあるから、おまえはただ指定された台を打つだけでいい」

「永野さんはどうするんですか?」

「おれは別の仕事がある。でも、おまえがおかしな行動をしたらすぐにわかるからな。天網恢恢祖(てんもうかいかいそ)にしてもらさず」

「何すかそれ」

「悪事はばれるってことだ」

「ウチコは悪事じゃないんすか?」

「いいか、カキゴオリ、人生、何を主体にするかだ。おれの主体はおれの『金』だ。つまり、悪事ってのは、おれの主体であるおれの金にとって都合の悪いすべてのこと、だ」

 そんな自分勝手な理屈があるか、と思った。でも、口には出さなかった。黙ってスウェットの上下に着替え、白米にふりかけをかけて2杯食べ、お金を受け取って外に出た。 首、いてえ。


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 R駅は電車を乗り継いで1時間くらいかかった。抽選は9時からで、パチ屋の前には30人ほどの行列ができていた。絶妙な人数なのかもしれなかった。これが200人とかだったらバレる可能性が飛躍的に高まり、これが10人未満でもしかり。漠然とした嫌悪感に包まれながら、抽選を受けることにした。スイッチを押す式の抽選だった。ということは、この店員もグルなのか……。渡された番号は「3」だった。

 9時45分まではスマホのゲームをして時間をつぶした。店のシマ配置は覚えたが、いざ実際に入場する段になると、胸の中が不安一色になった。不安は黒々として、光をよせつけない。俺が着席するべきは326番台。しかし誰かに台を奪われたらどうしよう、という黒々とした思いは杞憂に終わった。前のふたりはパチンコのフロアで曲がってしまったからだった。台を確保。
 さて、実戦。バジリスク2の推定設定6、である。


つづく


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