人生には真の魅力はひとつしかない。それは賭博の魅力である。

シャルル・ボードレール

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赤いライオン、或るスロッターの明るい部屋 ♯4


 たまたま? 玉だけに? 32万の勝ち?

「……俺そんな出したことないっすよ」圧倒的な勝利を収めた人間を前に、なかば震え気味に俺は言った。

「あのね、出玉ってのはね、蓋然性なのね。わかる? 蓋然性って」

 首を振った。

「じゃあいいや。スロットで考えるとして、Aという機種を8000回転打って万枚出る確率が1%とするじゃん」

「はい」

「1%ってことはさ、明日おまえがパチ屋でAを打って万枚出る可能性はあるんだよ。それは間違いなく。だけど蓋然性という観点から見ると、限りなく薄い」

 再度首を振った。

「おいバカゴオリ、よく聞けよ」スウェットメガネ野郎は言う。「パチンコもスロットも、勝つっていう観点から見ると、可能性じゃなくて蓋然性をたぐりよせるゲームなんだよ。長いこと打ってれば1%くらい何てことないの。1日で引こうとしなければ。わかる? わかんねえか。おまえバカだな」

「バカっすかねえ」

「うん。バカだな」

 いつの間にかすっかり敬語に板がついている自分を発見し、はっとした。違う違う。俺はこんなやつじゃないのだ。頭を振って俺は言った。「……確率ってことすか」

「そうだ。蓋然性とは確率のことだ。勝てるメカニズムを身体化できてない人間は、『今現在』という地点で勝ち越していたとしても、ギャンブルを続けるうちに死ぬ蓋然性が高い。そういうこった。いいねえ、バガゴオリ。進歩だねえ。いいか。まずは言語化、そして身体化。人生に近道はない。人間は進化なんてしない。できるのは歩んで進むだけだ。一歩一歩なのだよ、バカゴオリ」

「……」

「わかったら今日の勝ち分を渡しなさい」

「ふぇ?」

「ふぇじゃねえだろ。今日のノートと一緒にだ」

「俺の取り分は?」

「200万稼ぐまではなし。それからな、バカゴオリ。おまえが今のままで、進歩が見られなければ、おまえが来年まで生きている可能性はゼロだ。可能性ゼロってことは、蓋然性もゼロ」

「……」
「おまえは死ぬんだよ、バカゴオリ」 


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「……あの、飯は?」と言った。

「米があるから自炊しろ。つけあわせなり何なりは、一応それなりにあるから何とかなる。飯、水、風呂、トイレ、は自由にしていい。なかなかいい条件だろ。昼飯が食いたければおにぎりでも握って持参しろ」

「あの、永沢、さん」

「永沢君だ」

「永沢君、今日勝った金は何に使うんすか?」

「何で使う必要があるんだ?」

「え、だって大勝したでしょ。大勝したらどっかでパーッとやるもんじゃないんですか?」

「あのな、今日の勝ちは蓋然性の中の、つまり起こり得た結果の中の一形態に過ぎない。今日15万負けることだってありえたんだ。30万勝とうが15万負けようが、同じことなんだよ。おまえはその境地に3ヶ月以内に立たなければならない。できなければ、おまえの人生はそこで終わりだ」

「あの、どうしてそんなきついことばっか言うんすか」

「泣くか? 泣けよ。涙はこれ以上ないストレス解消法だ。早く泣け。ワンワン泣け」

「……ろすぞ」

「あ?」

「ころすぞ」

「ふふん」と永沢君は笑った。「人から泣かされるのと自発的に泣くのはまったく違うぞ。バカゴオリ」

「ふざけんな」


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 ……何だ? 何が起きた? 一瞬前の記憶が消失していた。なぜか永沢君のスニーカー(ハイカットの白いエアフォースワンだった)が俺の頭の上に乗っていた。そしてこの感触は、……アスファルトだった。……俺、転んだのか?

「泣かされたくなければ先に泣くこった」

「ふざけんな」俺は吼えていた。顔面にスニーカーを乗せられて、それでも吼えていた。あまりの悔しさに涙が溢れた。鼻に入って逆流した。むせた。ますます涙が溢れた。スコン、という音がした。何の音だろう? 奇妙なことに、俺は自分の肉体を斜め上から見下ろしていた。それは自分の首の立てる音だったのだ。肉体から離れて見る俺は案外男前だな、と思った。次の瞬間、感覚が自分という肉体の中の暗黒に吸い込まれていった……


つづく
 


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