P1010191
「ヨセミテ国立公園のリス」

また小説を載っけてみようと思います。今回はぼくの苦手分野、構築系の小説に挑戦してみようのコーナー。そこで、お願い。今日の分読んだよ、という人は、バナーを押してほしいんす。
ブログランキング・にほんブログ村へ 
今回はスロ小説じゃないので、反応がなかったら打ち切りにします。読みたい/読みたくないの意思表示をしていただけると嬉しく思います。よろしくお願いします(。・ω・)ノ゙

 

震音の章3


 高貴な血筋を持つ主人公がひどい宿命に立ち向かう物語は、神話、民話など、世界中に散見し、特に日本における物語の原型を、民俗学者折口信夫は「貴種流離譚(きしゅりゅうりたん)」と呼んだ。

 ジェイク・ローランドは孤児だった。ジェイクが貴種流離譚に魅せられたのも無理はない。醜いアヒルの子の可能性。僕にはそれがたまらなくうらやましかったんだと思う。こんなことを言うと、おまえが恵まれているからだ、と言われるに決まってる。でも、思わずにはいられなかったのだ。なぜ僕はきちんと命脈をたどれるのだろう? 僕は母の顔を知っている、父の顔も知っている。母は死に、父は生きている。僕も貴種流離譚に魅せられていた。ジェイクとは逆の意味合いで。 
 

 僕はジェイクに嫉妬していた。それでもジェイクとの時間は楽しかった。彼も僕との時間を楽しんでいるように見えた。僕たちは毎日のように図書館の中で無言のあいさつをかわし、館内の空いている場所を探して小さな声で話し合った。僕は求め、ジェイクも求めた。ぼくたちはウロボロスみたいにお互いを必要としていた。

 僕は自分と同じ趣味の人間に出会ったことがなかった。僕には日本的なシャイネス、引っ込み思案なところがあったし、それでいて、僕には国籍がふたつあった。日本とアメリカ、どちらにするか、まだ決めかねていた。そんなとき、僕に小説という宝物を授けてくれた母親は死んだ。僕はますます自分の中に沈潜した。前にもまして、僕は一人で本を読んだ。この街に来てからは、ずっとひとりだった。正直に言う。僕はジェイクに出会って浮かれていたのだった。
 

          ◆

 

「ヤマシタ、絵を見にいかないか?」ある日、ジェイクが僕を誘った。

「絵?」

「うん。僕の知り合いの描いた絵を見て欲しいんだ」

「その絵はどこにあるの?」

「ディミヌエンドだけど」

「ディミヌエンド……」

 まったく気乗りしなかった。ここに越してきて以来、スラムの広がる地区、通称ディミヌエンドには足を踏み入れたことがなかったし、父親はいつも口を酸っぱくして「近づくな」と言っていた。

「ヤマシタは絵は嫌い?」

「いや、嫌いじゃないけど」

「怖いの?」

 怖くなんてない、と僕は思う。「怖くなんてない」と僕は言う。

「大丈夫。何かあっても僕が守ってあげるから」ジェイクは言った。

 君に何ができるんだ? と思ったが、そこまで言われたらしょうがない。僕はジェイクにうながされるまま、サリエリの橋を越えることにした。

つづく
ブログランキング・にほんブログ村へ 

4へ