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「ヨセミテ国立公園のリス」

アル中にならないためのまえがき

アル中になるのはやめにして、小説を載っけてみます。今回はぼくの苦手分野、構築系の小説への挑戦。テーマはずばり、構築力の強化(自分勝手ですいません)。そこで、お願い。今日の分読んだよ、という人は、バナーを押してほしいんす。
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せっかく双方向レスポンスの時代、現代に生きているのだから、読む人にジャッジしてもらおうかな、と。小説はちょうど2週間で終わる予定ですが、今回はスロ小説じゃないので、10日程度連載してみて反応がなかったら打ち切りにしちゃいます。読みたい/読みたくないの意思表示をしていただけると嬉しく存じます。よろしくお願いします(。・ω・)ノ゙


「震音の章」1

 

 この街に越してきて一ヶ月になる。

 僕は時間があるときはだいたい図書館にいる。街の景観に不釣合いなゴシック調の建物の中には驚くほどの蔵書があり、それでいていつも空いているからだ。

 というのは口実で、僕には友だちがいないから、そして家に帰ってもすることがないから、ひとりでいてもひとりじゃない気がするからここにいる。それが真実だ。

 真実の仮説。きっと本は、ある種の本は、語り合う誰かのいない人、そう、僕みたいな人間に向けて書かれている。わかりあえる第三者のいる人間がわざわざ本なんて読むはずない。だからそういう本を書いたのも僕みたいな人間だ。孤独じゃなくてどうして誰かにその孤独を伝える必要がある?

 もし僕の仮説が正しいとすれば、遥か昔から僕(僕みたいな人間)はいたということになる。それだけが僕の存在を肯定してくれる。だから僕は静寂な空間で本を読む。僕が好むのは孤独な少年、あるいはこの世界にフィットしていないと感じる人間が、ある日使命に目覚めてどこか遠い世界に向かう話。今読んでいるこの本もそう。使命に目覚めて、というところがいい。その使命は生まれる前から決まっていて、彼や彼女はそのために生まれたのだ。僕にもそんな使命があるのではないか、と密かに夢想する。でも、今のところ、そんなものはどこにも見当たらない。いつか見当たるかどうかもわからない。
 

 物音がして目を上げると、ひとりの少年がイスに座ったところだった。僕と同じくらいの年齢だろうか。独特の雰囲気があった。あるいはスラムの住民なのかもしれない。珍しいとは思いつつ、僕は文章に目を戻す。

「ハイ」声は前方から聞こえた。

 顔を上げた。少年はどうやら僕に話しかけているみたいだった。

「何?」僕は懐疑的な視線を返す。

「君、本に詳しそうだね、何かこういう感じの小説が他にないか教えてくれないかな?」

 彼の持っていた本は、チャールズ・ディケンズの「オリバー・ツイスト」だった。思わず「貴種流離譚」と呟いていた。そう、僕の好むタイプの本だったのだ。

「きしゅ?」

「ああごめん。……何ていえばいいのかな。エグザイルオブザノーブルブラッドって感じかな。オリグチシノブって人の言葉なんだけど」

「うんうん、それでそれで?」

「日本だと割と有名な定義で、ジャンルというかアーキタイプなんだけど、世界中の神話に見られる原型、たとえばグリム童話にもアンデルセンの童話にもあるし、千年前に書かれた源氏物語もそうだね、竹取物語もそう、もっと古くはオデュッセイア、さらに古く、ギルガメシュの叙事詩もそうだし、ドラゴンボールも……」調子に乗って話していると、少し離れた席で本を読んでいた小奇麗な格好のおばさんが、「こほん」と咳払いをした。途端に我に返り、頭を下げた。それから、「話すなら、ここを出て話さないか?」と小声で言った。彼は笑顔でうなずいた。

 彼こそがジェイク・ローランド。僕の人生を変えた男だ。 


つづく
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