世界には、きみ以外には誰も歩むことのできない唯一の道がある。その道はどこに行き着くのか、と問うてはならない。ひたすら歩め。


フリードリヒ・ヴィルヘルム・ニーチェ 永井均訳

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「パチ屋のなくなった世界で」 

第四章

消えゆく僕の世界で僕は The world will be lost for change the world.


本作はフィクションであり、実際の人物、団体、事件などとは一切関係ありません。


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第十六回




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  中学の頃、僕はTKと呼ばれていた。崇→てぃかし→TK氏→TK。たぶん当時流行ってた小室哲哉のイニシャルの流用に過ぎないのだろう。が、忽然と友人が消えてしまってから、僕の名前を呼ぶのは父親と母親だけになってしまった。僕は自分の名前を憎むようになった。僕が無視されるのは、その名前のせいだと思った。以来、僕は自分の名前を語らなくなった。


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 イジメであるか、イジメでないか、というのは議論が別れるところとは思う。が、僕は無視されたこと、存在を抹消されたことをイジメであるという風に解釈してはいない。僕には理解しがたい事実ではあるが、僕が悪いという可能性は残る。それを否定できるほど僕は善人じゃない。できることと、できないこと。それらをひとつひとつ分けよう、というのが僕の決断だった。結局、起きてしまったことは自分にとって必要なことだった、そう捉える以外になかったのだ。

 友だちがいない。オッケー。ならば俺はそれを望むまい。次。次? タバコを吸おう。それならひとりでできる。次。スロットをしよう。ひとりでできる。高校の同級生に麻雀に誘われる。オッケー。これはゲームだ。ギャンブルだ。勝てばいい。誰に対しても気を許さない。問題ない。それで問題は解決したはずだった。


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 が、問題は、常に人間関係の問題だった。高校二年の秋、地元の駅で、同い年の女子高生に呼び止められてこう言われた。

「好きです」

「はい?」

「あの、今つきあってる人とかいますか?」
「……いや」
「つきあってください」

「はい」

 なぜか僕は、そのオファーを承諾していた。自分で自分がさっぱりわからなかった。できることと、できないこと。それらをひとつひとつ分けるというのが僕の決断だったのではないのか?

 セックスをすると世界が変わる。誰かがそう言った。それは本当だった。何かを成した後、それを成していない世界には戻れない。それだけのことだ。セックスをしなくても、世界は変わる。一秒一秒世界は変わる。変わらないことは、変わる前の世界には戻れないという残酷な事実だけだ。


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 つきあいはじめて数ヶ月後、彼女と連絡が取れなくなった。彼女の携帯は「お客様のおかけになった電話番号は……」状態になり、彼女の家に電話をしても、娘はいない、と言われるばかりだった。しばらくして、別の男性と歩いている彼女を目撃する。晴天の霹靂、また、晴天の霹靂。中学のあの事件以来築き上げていた何かが崩落していた。僕にはそれ以上彼女に執着する勇気はなかった。僕はまたも拳をゆるめた。あきらめたのだった。そして再び、できることとできないことを仕分けしはじめた。


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 小僧や太郎は僕のことを強い人間だ、と言った。が、僕は自分の弱さを知っている。強い人間の魂がハブられたくらいで死んだりはしない。つきあっていた女の子に別の男ができたくらいで精神が崩落したりしない。強い人間が掲示板にさらされただけで京都に向かったりしない。僕は強くない。でも、強くなりたい。


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 強くなりたい。



つづく

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