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本作はフィクションであり、実際の人物、団体、事件などとは一切関係ありません。

「パチ屋のなくなった世界で」第二章

梅松ブラザーズ

 

第四回

牙リバコンビの登場人物紹介1
牙リバコンビの登場人物紹介2


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「なあ、こんなやつ車の後部座席に乗せて、職質とか受けたら一発でアウトちゃう」

「問題ない」と梅崎は言い切った。

「んがんがんがんがんがんが」先ほど飲まされた睡眠導入剤のせいで朦朧としているが、それでも何かを呟き続け、サカキバラは意識を保っていた。しかし体の自由がきかなかった。自分の部屋に敷いてあったペルシャ絨毯でぐるぐる巻きにされ、さらに4組のペルシャ絨毯で後部座席が埋め尽くされているため、ぱっと見はペルシャ絨毯の行商くらいにしか見えない。それが怪しいと言えば怪しいが、事故にでも巻き込まれない限りは問題ない。梅崎はそう判断した。そして実際、黒いデミオは危なげなく目的地に着いた。時刻は深夜二時を過ぎた頃だった。


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「なあ、こういうとこって監視カメラあるんちゃう?」

「大丈夫だ」

 梅崎は、監視カメラの場所を把握していた。

「しかし重いわあ」と太郎が嘆く。

「ふがふがふがふがふがふがふが」サカキバラは何かを呻いている。

 ふたりはそんなサカキバラを抱え、落ち葉を踏みしめ歩いていく。ざっざっざっ、何かを踏みしめる足の音が、耳栓を装着されたサカキバラの耳にも届いていた。
 気づくとサカキバラは宙に浮いていた。と思うや否や、地面に叩きつけられた。 ざっざっざっ、遠ざかっていく足音が聞こえた。
「何ぞこれ?」とサカキバラは思った。 


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「……ほんまに薄気味悪い森やな。ほんで、どうすんの?」梅崎に言われた通り、ひそひそ声で太郎は言った。

「何もしない。これはあいつにとっての試練であり、おまえにとっての試練だ」

「は?」

 自殺の名所と呼ばれる夜の森だった。梅崎は喋るな、と言う。太郎はわけがわからなかった。サカキバラはもぞもぞと動こうとするが、落ち葉の感触が大きく動くことを防いでいた。たぶん、と太郎は思う。怖いのだ。そらそうやろ。視界のあるおれですら、ここにいるのは怖い。目をふさがれて、口をふさがれて、完璧ではないにしろ耳もふさがれとる。あいつの恐怖はいかばかりやろ、と太郎は思う。えげつな、と思う。でも、ほんまにえげつないやりかたをするんやったら、ここに放置するだけでええんちゃうの、と太郎は思う。こいつ、何がしたいんやろ。


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 サカキバラはこの状況を打破するべく、試しに小便を漏らしてみた。が、何事も起きなかった。目が見えるようになることもなかったし、音がクリアになることもなかったし、ガムテープが取れることもなかった。ただ自分の身を覆うペルシャ絨毯の一部分が濡れただけだった。ふむ、とサカキバラは思う。これが放置プレイか。


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「なあ」梅崎の耳元で太郎は言った。「タバコ吸ってもいい?」

 梅崎は胸元からナイフを取り出した。ダメだ、ということだろう、と太郎は承服した。しゃあないな。ほな何しよ。むっちゃヒマやんけ。こいつ、何なん。おれにまで罰を与えて何がしたいん? 太郎は段々腹が立ってきた。が、腕力では梅崎には敵わない。そこで、太郎は自分の顔面にライトを当てて変な顔をした。山村崇でさえ苦笑せざるを得なかったとっておきの変顔だった。せめても反撃だったが、梅崎には何の効果もなかった。


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 夜の森はたくさんの気配に満ちていた。てか、寒、と太郎は思う。コートを着込んでいても、である。ペルシャ絨毯に包まれているとはいえ、サカキバラも震えていた。遠くからライトを当ててみる。ん? あいつ、漏らしとんちゃう。

「あいつ、漏らしとんちゃう」太郎は思ったことをそのまま言った。

「だから?」と梅崎は言った。

「……」

 梅、こいつは友だちできへんやろな、と太郎は思った。


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 ペルシャ絨毯の中のサカキバラは動き出すことに決めたようだった。もぞもぞと森を這っていく。が、目は見えず、声も出せず、耳も不自由だった。そこでサカキバラは、耳を地面に押し当てて、耳栓を取ろうとした。耳栓を取ったからといって事態が好転するとは限らなかったが、何かをせずにはいられなかった。が、どうしてもうまくいかなかった。サカキバラはあきらめ、再びもぞもぞ這っていく。何がどうなるわけではないが、じっとしているよりはマシだった。誰かが発見してくれる確率も上がると思った。が、実際は絶望的な試みだった。

 少し離れた位置で太郎と梅崎がその様を見ていた。太郎は不快感と戦っていた。これ、何の意味があるん? 痛めつけるんやったら直接やったらええやん。暗いわあ。根暗やわあ。無意識にタバコをくわえていて、そのタバコを横から伸びてきた手にもぎとられた。怖い顔をして梅崎が睨んでいた。
わあったって」と太郎は小さな声で言った。
「……」 


 201X年 第十七番 徳島県 井戸寺 仁王門


「師匠、あの梅崎って人と何日か一緒にいたって言ってましたよね」

「うん」

「どういう人でした?」

「怖いっていうか、優しいっていうか、何か不思議な人だったな」

「太郎さん、梅崎さんのこともよく喋ってたんですよ」

「何て?」

「師匠に似てるとこがあるって」

「俺と? どこが?」

「不器用なとこ、だそうです」

「太郎が器用ってことか? ふざけんなよな」

「はは。でも、たしかに師匠は器用ではないですよね」

「そう?」

「はい」

「でも、梅崎さんとおれじゃ優先するものが違う気がするけどな。個よりも全っていうか。自分よりも命令。たぶん命令があれば、死すら厭わない。そんな気がする。似てるかどうかはわからないけど、そこは決定的に違う。俺は自分を優先する。どんなときも」

「でも、師匠だって自分の都合よりスロットを優先するでしょ。打ちたい気持ちより設定を優先するでしょ。それって似てるって言うんじゃないですか?」

「……うーん」

「はい論破」と言って小僧は笑った。

「俺はそんな気がするって言っただけだろ。論の体を成してないのに破るもクソもないだろ」師匠は若干悔しそうな顔でそう言った。

 ふたりは仁王門をくぐり、本堂に向かって歩き出した。

つづく 

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