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あらすじ

山村という男はスロットで稼いで生きてきた。十数年、ひとり、自分だけの力で。
が、地元の掲示板で叩かれたショックで現実逃避の旅に出た。もう死んじゃおうかな、と思っているうちに四国にたどりついた。ひょんなことから出会った若者(山村は若者を小僧と呼び、若者は山村を師匠と呼ぶことになる)と行動を共にするようになり、なりゆきからコンビ打ちをすることになった。パチ屋で出会ったおじさんの家に寝泊りをさせてもらうようになり、山村は小僧と共に生きていくことを決意する。そして今、ふたりは家主の依頼で大阪にいた。魔都、大阪に、である。

第一話から読む

なお、当作品はフィクションであり、実際の人物、団体、事件などとは一切関係ありません。
 
「あの、これを」と言いながら、僕はたけさんから預かったルービックキューブ大の箱をチョビ髭のおっさんに手渡した。
「たしかに」とおっさんは言った。「たしかに」ともう一度言った後、がさごそとスーツの胸ポケットから封筒を取り出して、「これ、受け取っておくんなはれ」と言った。
 中を見ると、十万円が入っていて、多いな、と思ったけど、もらっておくことにした。「ありがとうございます」
「君ら、これやるんやろ」と言って、チョビ髭のおっさんはパチンコのハンドルを回すフリをした。
「いや、こっちです」と言って、僕はスロットのボタンを止めるフリをした。
「スロットか、まあまあ一緒みたいなもんやな。ええ店あんねんけど、この後ヒマやったら行ってみいひん?」
 ええ店ってどういうことだろう、と思ったが、たけさんの知り合いだし、ムゲに断ってもしょうがないと思い、「はい」とうなずくことにした。
「店はミナミにあるねんけどな、こっからやったら歩けるくらいの距離やわ」とチョビ髭のおっさんは言った。

 大阪市には中心がふたつある。北(キタ)、すなわち梅田界隈と、南(ミナミ)、難波界隈。渋谷と銀座のようなものだ、とチョビ髭のおっさんは言ったが、僕の目にはどちらも「大阪」に見えた。
 ええ店、というのは、パチ屋というよりは、裏カジノだった。中央にバカラのテーブルがあり、それからルーレット、ブラックジャックの卓がある。それらを取り囲むように、パチンコと、スロットの台があった。どれもこれも、落日の向こうに消えた懐かしい機種だった。
 ……てか、これシルバーブレッドじゃん。タコスロ。スロットにはまるきっかけとなったサンダーV、バーサス、ハナビ、ヒカリモノ三兄弟。さ、さ、サクセ……。アステカ。モグモグ。ナイン。ポルカノ2。それからこ、これは、ぷ、ぷ、ぷ、プレリュード。ビーナスラインセブン。花月。マンクラ。スロッティア。ボルキャニック。ゴシック。ブレージングスピリット! ジャイアーン!
 やばい。卒倒しそうだ。宝物の山を見つけた人のように物色していると、店長らしき人がやってきた。「ご来店ありがとうございます。スロットがお好きとうかがっております。色々取り揃えていますので、ぜひ、楽しんでってください」
「あの、このあたりの機種ってDDTとかリプレイ外しって効きますか?」と聞いてみた。
「効くものと効かないものがありますが、外しが効く機種はリール配列表が貼ってあるので、それを見て判断してください。ごゆっくり」
 ぺこりと頭を下げた後、タバコを吸おうとして、ああ、やめたんだった、と気づいた。普段は大丈夫だけど、緊張すると、やっぱ吸いたくなるな、と思う。うお、現金機のルパンだ。これ、CRフィーバーゴーストじゃん。しかも、ST機の方じゃね? 
「ねえ、師匠、知ってる機種がひとつもないんですけど……師匠? 何にやけてんすか? よだれたれちゃいますよ?」
「ちょっと黙っててくれるかな」
 迷う。迷う。迷う。迷う。しばらくここに住みたいと思うくらい。
「ええと、おまえはこれを打て。命令だ」と言って、小僧に二万円を渡した。
「ドギージャム? この犬がDJなんですか?」
「いいから打ちなさい。DDTの手順言うぞ」
「DDTって何でしたっけ?」
「この頃の台は、正式な手段を踏まないと、絶対に勝てないゲーム性だったの。小役こぼしたらはったおすからな」
「あの、遊びだって言ってませんでしたっけ?」
「うるせえ。聞け。白7の二つ下のBARを、左上段にビタ。ビタor3コマすべりまではそのまま中右と打って、4コマ滑ったら、ベルを狙う。で、次の周は、BARチェリー赤7のチェリーを枠内。中、右、とベルを目押し。滑りと出目を堪能してくれたまえ」
「全リール目押しって、めんどくさくないっすか?」
「おい、ゆとり。これが、スロットだ」
「師匠、何かキャラ変わってないですか?」
「そ、そんなことないよん」
「あれ?」という声が聞こえ、上を向くと、長身長髪の男が立っていて、「サダオか?」と言った。いや、僕は関西に知り合いはいないし、そもそもサダオカなんて苗字じゃないし、……サダオ?
「太郎か?」
「やっぱサダオやん。なつかしいなあ。元気やった?」
「元気、だけど……」
「何でサダオなんですか?」という小僧の質問に、「こいつ山村ゆう苗字やってさあ」と答えた。
「?」小僧は理解できないような顔をした。
「おま、リング知らん?」と太郎は言った。「パチもスロもあるやろ。まあ打っとっても知らんか。山村貞子って名前やねん。あのヒャーって落ちてくる手の持ち主」
「ああ。そういえば貞って出ますね。へえ。っていうか、師匠って山村って苗字だったんですね」
「その前にいいかな」と僕は言った。「太郎、おまえ、いつの間にモデルチェンジしたの?」
「何やねん、モデルチェンジって」
「いやいや、君、生まれも育ちも東京だよね」
「それが何かい」
「ま、言葉なんて些細なことだし、別にいいけどね、元気そうでよかった。じゃ、返すもん返してくれ」
「は?」
「おまえ、車持って逃げただろ。あの車の購入代金の半分とは言わないけど、その1/4でいいから返してくれ。ええと、あの車は諸々で120ちょいだったから、まあ、端数はカットしてあげるとして、30万返して」
「相変わらずしっかりしとんのお。おい、おまえ、今のサダオのオヒキやろ。こいつ、うっさいやろお。あれしろこれしろって、指図ばっかっしよるやろ」
「いや、師匠はあたりまえのことしか言わないですよ」
「何やねん師匠って、きっしょい。まあええわ、おまえら、ちょお飯でも食わへん? どっちにしろ金おろさなあかんし」
「いや、俺、紹介でこの店来たからさ、義理っつうか、打ちたいっつうか、しばらくここいるから、金おろしてこいよ」
「わかった、ほな、三時間後にまたここ来るわ。出とってもやめろよ」
「それは、無理」
「うん、言う思ったわ。ほなな」
「じゃあな」

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「師匠、ビッグ中は何をどうすればいいんですか?」と小僧が言った。
「中リールに、赤7の後ろにあるBARを狙う。ベルが中段に止まったら右リールにベルを狙う。ベルがテンパったら左もベル。プラムがテンパったら、左リールにプラムを狙う。中段にベル以外が止まったら、右リールを適当に押して、リプレイが上段にテンパったら、白7チェリーBARの白7を上段あたりに適当に押せばリプレイが外れる。リプレイが中段か下段にテンパったら、白7チェリーBARの白7の2つ上にあるベルをテンパイラインにビタ。逆から言うと、ベル白7ベルプラムベルのベルをテンパイラインにビタ押しってこと。おっけえ?」
「すいません。何語ですか、それは?」
 しょうがないので手本を見せることにした。さすがに1回目からリプレイを外すのはどうかと思ったが、1ゲーム目にいきなりリプレイが中段にテンパって、僕もテンパって、目押しをミスってしまった。笑ってごまかして、「まあ、後2回あるし、とにかく、こんな感じで、中、右、左、って打つことで、ボーナスゲームを長引かして、小役をいっぱい取ろうぜ、というのが、この頃のスロットのゲーム性でなのであります」と言った。
「何となく理解しました」
 驚くことに、小僧はビタ押しをビタビタ決めだした。師匠の面目丸つぶれである。まあ、いいか。
「2回目の小役ゲームは残り18くらいになったら順押しね。つうか、目押しができそうだったら、1回目2回目は順押しベル狙いで消化。3回目からリプレイ外しね」
「はい」
「で、3回目の小役ゲームは、残り8ゲームか7ゲームになったら中押しやめて、順押しに変えて」
「はーい」
 小憎(こにく)らしいことに、小僧は一瞬でリプレイ外しをマスターしたのだった。
「これが技術介入機なんですね。目押しさえできれば勝てたってマジですか?」
「マジ。だってこういう機種の場合、リプレイ外しをするのとしないのでは、一回で1000円以上変わってくるから、一日20回ビッグ引いたらそれだけで2万違うって話」
「いい時代ですね」
「まあね」
 僕が小僧の横で何を打っているかというと、むふ、むふふ。サミーのジャパン2でした。リール停止ボタンの圧力に指を持っていかれそうになりながら、ジュワーンという効果音にうれションをちびりそうになりながら打った。至福の時間だった。
「ねえ、師匠、この台狂ったみたいに連チャンしてるんですけど、大丈夫ですかね?」
「いいのいいの」と言った。
 何でもいい。どうでもいい。普段締めている頭のネジがどっかにふっ飛んでしまったみたいに楽しい。

つづく

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