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「アブサント」エドガー・ドガ

さて、無事スクール的なところにもぐりこみ、役者見習いになったぼくは、レッスンの鬼と化し、スロットをきっぱりやめた。


レッスンは希望専攻別(主に俳優、モデル、歌手)に分かれており、演技(映像)、演技(舞台)、ウォーキング、ボイストレーニング、ジャズダンス、コンテンポラリーダンス、とあり、これらを力尽きるまで受けることにした。


が、そのうちに生活資金に困るようになる。といって、スロットをする時間はない。いや、獣を追って穢れてしまった今の自分では、またぞろAT機打ちてえ病が再発するのが目に見えていた。 獣王に端を発した出玉の加熱は、スロット史上最恐時代の幕を開きつつあったが、ぼくにはやるべきことがあった。

ということで、演技にまつわる仕事をもらうようになる。


芸能関係のお仕事である。

芸能界最下級戦士のみにゆるされた仕事は、ドラマ、映画、CMなどのエキストラを筆頭にいくつかある。たとえばクイズ番組やバラエティ番組の観客、バラエティ番組のやらせ要員、再現ドラマの端役またはエキストラ、ヒーローショーのきぐるみを着る、などである。


これがまあ、しんどい仕事だった。まず、給料が信じられないくらいに安い。

たぶんエキストラ専門事務所などは、もう少し待遇がいいのだろうが、こちとら自ら望んで勉強のために、という名目で仕事を請けるわけだから、どうしたって買い叩かれるわけで、一日拘束、交通費なし、2000円というのが基本だった(過去最高で5000円+弁当とかだったと思う)。

たしかに、出番の時間のみを考えれば、悪くない給金なのかもしれない。が、そのほとんどは待ち時間なのである。


渋谷駅に集合といわれ、ロケバスに乗せられて、どこかわからない土地の神社につれていかれ、チンピラの衣装を着せられ、髪型を決められ、ヤクザの親分連中に挨拶をするだけの役が終わり、「おつかれした」と言われ、まさかの現地解散。通りすがりの人に最寄の駅を聞き、歩いて15分くらいのところに駅がある(東京の外れだった)と言われ、とぼとぼ歩いたことは忘れられない。電車賃で相殺である。


やらせが問題になって打ち切られた某健康番組の被験者になったこともある。

病院で検査を受ける映像、家で健康食を食べる映像、一日で一週間分の映像を撮り終えるのだ。

番組を見てみると、病院で何かの数値を取る自分。家でその健康食を一週間食べ続ける自分。再び病院で何かの数値を取る自分。何かの数値が上がっている、やったー、という流れだった(実際には数値すら取っていない)。

撮影はしたが、製作途中で企画が破綻して未払いということもあった。

タクシー代払っておいて、と言われ、領収書だけ奪われてそのまま、というのもあった。 


待ち時間20時間、出番数分、というのもあった。

が、そこで目にしたADさんの姿は、ぼくよりもさらに悲惨だった。「もう三日も寝てないよ、家にも帰ってない。アヘアヘ」目がイっていた。


ぼくは移動時間や待ち時間の間、ひたすら本を読んでいた。たぶん人生で一番読んだ。スマホの存在しない時代、時間を費やすのに最もコストパフォーマンスが高いのは、図書館で借りる本、もしくはブックオフで買う105円の文庫本だったからだ。


しんどいと書いたが、テレビドラマや映画、それからVシネマといった作品におけるエキストラは勉強になることが多かった。台詞をもらえることもあったし、端役がついて、連発で呼んでもらえることもあった。プロの役者の動きを生で見ることもできた。わずか15秒のシーンを一晩かけて撮ったり、スケジュールにないカットを撮り始めたり、監督による撮影方法の違いを垣間見ることもできた。


きつかったのは、(主に深夜の)バラエティ番組のやらせ(なのか演出なのか)要員だった。


ぼくは自分自身にこう問いかけた。この仕事は演技の上達につながるのだろうか? わからなかった。

頭のおかしい格好で知名度のない女性アイドルを追い掛け回したり、変態ラガーメンになって某男性アイドルにタックルを試みたり、ヤクの売人に扮して西新宿の公園をウロウロすることもあった。

志をもってレッスンを受ける。


志をしまって仕事をする。


志をもってレッスンを受ける。


志をしまって仕事をする。


加熱と減熱のくりかえしで疲労する金属のように、ぼくは磨耗していった。
 

そして決定的なことが起きるのである。


つづく

 

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